膝内反変形に対する認知運動療法

  • 奥埜 博之
    摂南総合病院認知神経リハビリテーションセンター
  • 西上 智彦
    高知大学医学部付属病院リハビリテーション部
  • 生野 達也
    摂南総合病院認知神経リハビリテーションセンター
  • 川見 清豪
    摂南総合病院認知神経リハビリテーションセンター
  • 信迫 悟志
    東大阪山路病院リハビリテーション科 畿央大学大学院健康科学研究科
  • 塚本 芳久
    摂南総合病院認知神経リハビリテーションセンター

この論文をさがす

説明

【はじめに】膝内反変形に対しては大腿四頭筋の筋力増強運動が従来から多く行われてきた.しかし近年の研究においては、大腿四頭筋の筋力増強運動によって、膝関節の内転モーメントは改善しないことが明らかにされている(Hinmanら,2008).また、内転モーメントに起因する膝の歩行時側方動揺性(以下lateral thrust)を説明する要因としては、内側広筋(以下VM)の筋活動開始時間の遅延が報告されており(西上ら、2007)、従来の筋力増強理論では対処できない病態が示された.今回、若年者の膝内反変形症例に対して情報処理と運動制御の視点から治療仮説を立案し、良好な結果を得たので報告する.<BR>【膝内反変形・lateral thrustに対する治療仮説】通常、歩行は小脳に同定されている内部モデルに基づいてフィードフォワード制御がされている.中枢神経系はすでにある内部モデルに基づいて、収集した情報によって運動をプログラムすると同時に、リアルタイムに内部モデルを更新する.VMの筋活動開始時間の遅延は、適切な情報の抽出が出来なくなり、内部モデルに基づいて予測的に運動(筋収縮)を行えなくなった為と考えられる.これによって踵接地時に十分なVMの収縮が得られず、膝内反変形や疼痛を助長している可能性がある.なお、小脳と補足運動野は連関しており、補足運動野は体性感覚情報にもとづいて運動プログラミングすると同時に、小脳の内部モデルの更新に必要な情報を提供する.つまり、内部モデルを更新して、歩行における予測的な制御を獲得させる為には、適切な体性感覚情報の抽出とその処理が重要ではないかという治療仮説が立案できる.<BR>【症例と訓練内容】20歳代女性.両側に著明な膝内反変形を呈しており、歩行時に両側膝内側部に荷重時痛及びlateral thrustを生じていた.荷重時痛の評価としては、Numerical Rating Scale(以下NRS)を用い、初期評価時は7点であった.症例は端座位で足底に設置した単軸不安定板の側方傾斜位を水平と認識していた.つまり、地面の水平性に関する情報の抽出に問題があり、足底の内外側にかかる圧情報と足関節の位置覚情報との間に整合性がない為に混乱する様子を認めた.訓練としては、足関節の位置覚情報と足底の内外側にかかる圧情報を認識していくことで、不安定板の水平性を判断する認知課題を中心に行った.なお、本発表は本人の同意を得て行った.<BR>【結果と考察】セラピストが必要な感覚情報の選択と関係付けを明確にしていくことで水平性の認識が可能となった.結果、膝内反変形とlateral thrustの改善を認め、NRSは0点となったことから、前述した治療仮説に蓋然性を認めた.今後は内部モデルのさらなる精緻のために、歩行の各相の改善に必要な体性感覚情報を明確にしていくことが必要であると考える.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2008 (0), C3P2479-C3P2479, 2009

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

被引用文献 (1)*注記

もっと見る

詳細情報 詳細情報について

問題の指摘

ページトップへ