高齢健常者における椅子からの立ち上がり戦略の違いによる運動学的考察

  • 都築 晃
    藤田保健衛生大学リハビリテーション専門学校
  • 岡西 哲夫
    藤田保健衛生大学衛生学部リハビリテーション学科
  • 櫻井 宏明
    藤田保健衛生大学リハビリテーション専門学校
  • 岡田 誠
    藤田保健衛生大学衛生学部リハビリテーション学科
  • 才藤 栄一
    藤田保健衛生大学リハビリテーション医学講座

説明

【目的】高齢者の移乗・移動動作の改善において、筋力強化は重要である。しかし、日常生活活動においては、筋力をいかに効率よく発揮できるかも重要な課題である。しかもパフォーマンスの向上には、多くの筋による運動の習熟(スキル)が必要であり、むしろ筋活動の減少を目的とすることも課題であると考える。そこで今回、「椅子からの立ち上がり動作」を、運動学習と筋力との関係から分析し、高齢障害者の移乗・移動動作の改善を目指した運動療法について検討した。<BR><BR>【方法】対象は、健常高齢者20名(平均年齢64.3±4.3歳)として、測定項目は、1)、膝伸展筋力(等尺性)2)片足立ちバランス(閉眼15秒間の接床回数)、3)椅子からの立ち上がり動作分析として、普段の立ち上がり、椅子の高さを変化させた時のビデオ解析、足圧中心移動と筋電図学的分析(検索筋は内側広筋、大腿直筋、下腿三頭筋内側頭、前脛骨筋、ハムストリングス、脊柱起立筋の6筋)を行った。 <BR><BR>【結果】等尺性膝伸展筋力は、45.6±8.7kgであり、同年代の膝伸展筋力の報告とほぼ同程度の結果を得た。しかし、バランス機能としての閉眼片脚起立時の接床回数は、最低0回から最高7回(平均 3.6±1.7回)まで広く分布した。そして、日常の立ち上がり戦略は、このバランス機能との関連において大きく2群に分かれた。すなわち、バランス安定群:4例(接床回数0~2回)は、体幹の前方(水平)移動から垂直移動は連続的に観察され、股関節を屈曲しての体幹前方移動を膝伸展モーメントに利用して殿部を挙上する運動性優位のモーメント戦略を呈した。一方、バランス不安定群:5例(接床回数5~7回)は、体幹の前方(水平)移動で、一旦動作はとぎれ、その後、垂直移動が見られ、主として、下肢筋力によって殿部を挙上する立ち上がりを示す、安定性優位なスタビライズ様戦略を呈した。筋電図的分析では、安定群の殿部離床後の内側広筋、脊柱起立筋、腓腹筋活動の筋活動は、バランス不安定群と比較して有意に低い活動を示した(p<0.05)。これら2群に対し、椅子の高さを3段階(60,50,40cm)に変化させて、3種類の戦略(スタビライズ戦略,手すりの使用,モーメント戦略)を教示したところ、バランス不安定群は、いずれの高さでもモーメント戦略の習得は困難であったが、60cmの高さでは比較的低い内側広筋活動を得た。<BR><BR>【考察】以上の結果から、高齢障害者の移乗・移動動作の改善をめざす運動療法の留意点は、筋力を如何に効率よく、習熟して発揮するかに重点を置くべきである。そのためには、立ち上がりモーメント戦略のような、体幹の前方移動を膝伸展運動に利用することや脊柱起立筋による体幹のコントロールの仕方等を、難易度を考慮して習熟させ、下肢の筋力発揮(筋活動)の減少を目的とすることも重要と考えられた。<BR>

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2006 (0), A1202-A1202, 2007

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205568356992
  • NII論文ID
    130005013565
  • DOI
    10.14900/cjpt.2006.0.a1202.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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