Guyon管における尺骨神経の絞扼に関する解剖学的因子の検討

DOI
  • 村瀬 政信
    医療法人清水会 相生山病院 リハビリテーション科
  • 中野 隆
    愛知医科大学医学部 解剖学講座
  • 金丸 みき
    医療法人清水会 相生山病院 リハビリテーション科
  • 安本 旭宏
    医療法人清水会 相生山病院 リハビリテーション科
  • 樋口 恵
    医療法人清水会 相生山病院 リハビリテーション科

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抄録

【目的】Guyon管における尺骨神経の絞扼性神経障害はGuyon管症候群と呼ばれ,肘部管症候群に比べて稀と言われているが,リハビリテーション領域では杖を使用する片麻痺者や車椅子を使用する対麻痺者にGuyon管症候群が起こると報告されている.今回,Guyon管において尺骨神経の絞扼を起こし得る解剖学的因子を検討したので報告する.<BR>【方法】対象は,愛知医科大学解剖学セミナーに供された解剖実習用ご遺体22体34肢とした.方法は,前腕遠位部,手関節部,手掌および手背の尺側部の剥皮を行い,脂肪組織を除去して尺側手根屈筋,手掌腱膜,短掌筋を剖出した.次に,尺側手根屈筋の深層で尺骨神経と尺骨動脈を同定し,それらがGuyon管へ進入する部位まで剖出した.手掌腱膜を切断して,短掌筋とともにGuyon管の天蓋部である掌側手根靱帯を切除した後,Guyon管の内部構造および尺骨神経を観察した.なお,解剖の実施にあたっては,同大学解剖学講座教授の指導の下に行った.<BR>【結果】尺骨神経はGuyon管内部で深枝と浅枝に分かれていた.Guyon管の底部は,豆鉤靭帯およびその深層の有鉤骨であり,硬い構造となっていた.短小指屈筋の近位縁は多くの例で線維性のアーチ(以下,アーチ)を形成し,尺骨神経深枝はアーチ深層の狭い裂隙へ進入していた.Guyon管より遠位部において,尺骨神経浅枝は,表層を小指と環指へ走行していた.また,破格筋が34肢中6肢(17.6%)に認められた.5肢において,小指外転筋が豆状骨のみでなく前腕筋膜からも起始しており,前腕筋膜から起始する筋腹は尺骨神経深枝と浅枝の表層に位置していた.1肢において,短小指屈筋が有鉤骨鉤のみでなく前腕筋膜からも起始しており,前腕筋膜から起始する筋腹は尺骨神経深枝と浅枝の表層に位置していた.<BR>【考察】今回の結果より,Guyon管において尺骨神経の絞扼を起こしうる解剖学的因子として,(1)Guyon管底部の硬い構造,(2)アーチ深層の狭い裂隙,(3)小指外転筋または短小指屈筋の破格が挙げられる.これらの因子は以下の可能性が考えられる.(1)Guyon管の底部の硬い構造は,手掌表面から圧迫が加わると,尺骨神経深枝と浅枝の絞扼を起こす.(2)アーチ深層の狭い裂隙にガングリオンなどの占拠物が存在すると,尺骨神経深枝の絞扼を起こす.(3)小指外転筋または短小指屈筋の破格は,尺骨神経深枝と浅枝の絞扼を起こす.堂園は,杖を使用する片麻痺者や車椅子を使用する対麻痺者において神経伝導速度を測定し,それらの使用が尺骨神経障害を起こす可能性を報告している.以上のことより,Guyon管における尺骨神経の絞扼性神経障害は,杖や車椅子の使用よる手掌表面からの強い圧迫で起こり得ると考えられ,リハビリテーション領域で注意しなければならない絞扼性神経障害のひとつであることが示唆された.<BR>

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2006 (0), A0682-A0682, 2007

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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