若年者と高齢者の歩行精度について

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抄録

【目的】<BR> 高齢者の転倒は外傷や骨折を引き起こすばかりでなく、時として死を引き起こす現象でもある。身体機能要素の中でも特に加齢による低下率が著しいとされるのは感覚要因である。感覚要因が低下した場合、空間での体幹や四肢の位置の認識が低下し、足部のつまずきなどが誘発される。加齢による歩行の変化としては重複歩距離の短縮や歩隔の拡大、二重支持期の延長などが挙げられる。しかし、歩行精度そのものにどのような影響をおよぼすかは明らかとなっていない。そこで本研究では、平地歩行における歩幅に焦点を絞り、高齢者と若年者の歩行精度について検討することとした。<BR>【方法】<BR> 対象者は下肢に既往のない60歳以上の高齢群(平均年齢73.4±7.5歳)30名と、若年群(平均年齢20.0±1.0歳)30名を対象とした。対象者にFAX用紙を床面に貼り付けた長さ16mの歩行路で歩行を行わせた。歩幅が計測できるよう被験者には市販の靴(チヨダ物産(株)社製)の踵部最後部から2cm前方の一部分をくり抜き朱肉を埋め込んだ靴を着用させた。靴のサイズはJIS(日本工業規格:Japanese Industial Standards)の基準に準じて被検者の足のサイズを5mm単位で測定して選定した。条件として歩行中は歩行路の最終地点においた目標物を注視させ、歩行速度は自由とした。歩幅の測定は歩行開始時と終了時の変動を除外するため、歩行路の前後3mを除いた中間の10mで行った。歩幅はFAX用紙におけるそれぞれの朱肉の最後端からFAX用紙の長軸に垂直な線を引き、一側の朱肉の最後端から他側の朱肉の最後端までのそれぞれの垂線間をメジャーを用いてmm単位で測定した。10mにおける歩幅の平均値を各歩幅から減じ、その絶対値の平均を各個人の歩幅の誤差とした。両群で得られた歩幅の比較には分散の比の検定を用いた。<BR>【説明と同意】<BR> 本研究は研究の目的、実験方法について対象者に十分な説明を行い、同意を得た後、測定を行った。<BR>【結果】<BR> 高齢群と若年群における歩幅の誤差はそれぞれ2.2±0.7cm、1.6±0.4cmであった。両群における歩幅の誤差を比較したところ、若年群に比べて高齢群の歩幅の誤差の方が有意に大きいことが明らかとなった(p<0.05)。<BR>【考察】<BR> 本研究の結果から,若年群より高齢群の方が歩幅の誤差が大きいことが分かった。また、それは若年群と比べて平均で約1.4倍程度であることも分かった。加齢に伴いさまざまな機能が低下することが知られている。その中でも特に加齢による低下率が著しいとされるのは感覚要因である。そのため、このような感覚をはじめとする様々な機能の低下が歩行時のバランスを低下させ、歩行時における歩幅の誤差を招いたと考察される。また、高齢者の歩行では1歩あたり約2.2cmの誤差があり、若年者の約1.4倍程度であることを考慮すれば、不整地歩行などにおいては若年者と比べてかなり転倒のリスクが高くなると考えられる。さらにその誤差は1歩1歩ごとに生じていることから、いつどのタイミングで転倒が起きてもおかしくないことを示していると考察される。今後はこれらの誤差と転倒の関係についても検討していきたいと考える。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 高齢者における歩行精度を歩幅から捉え、若年者に比べてその誤差が有意に大きいことを明らかにした。さらに高齢者の歩行では歩幅の減少や歩隔の拡大などが生じるだけではなく、1歩1歩の歩幅の変動も大きくなることを明らかとした。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), A4P2034-A4P2034, 2010

    公益社団法人 日本理学療法士協会

キーワード

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205568429312
  • NII論文ID
    130004581844
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.a4p2034.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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