鏡失認に対する側方ミラーアプローチの有効例と非有効例に関する研究

DOI
  • 網本 和
    首都大学東京人間健康科学研究科
  • 渡辺 学
    首都大学東京人間健康科学研究科 北里研究所メディカルセンター病院
  • 宮本 真明
    首都大学東京人間健康科学研究科 渕野辺総合病院
  • 斉藤 和夫
    渕野辺総合病院

抄録

【目的】左半側空間無視症例において、いわゆる健側の矢状面(側方)に置かれた鏡に投影された「無視空間」に呈示されたボールなどの物体を鏡に映っていると理解しながら、実物への把握が困難で鏡像へと手を伸ばし掴もうとする特異な現象が「鏡失認(以下MA)」症状である。その後Ramachandranら(1999)は、この矢状面(側方)に置かれた鏡を用いることによって半側空間無視症状の軽減に利用できるのではないかと報告した。本邦でも最近報告された(Watanabeら、2007)が、多数例での検討は行われていない。また特に注目すべきは、「新しい治療アプローチ」としての可能性であり臨床的有用性についての分析が必要である。本研究の目的は、比較的多数例において鏡失認症例の病態と経過を分析し、側方ミラーアプローチが有効な例と非有効例との比較を行い検討することである。<BR>【対象】脳血管障害による右半球損傷で、後述する評価によって半側空間無視および鏡失認を示した意識清明な15例(男性5名、脳梗塞9例、脳内出血6例、年齢平均77歳、発症からの経過23日)とした。全ての被験者に研究の趣旨を説明し書面にて同意を得た。<BR>【方法】半側空間無視の検出は、視覚消去、線分2等分、線分抹消、2点発見課題を施行しその重症度を判定した。鏡失認症状の検出は、健側の矢状面(側方)に置かれた鏡に投影された「無視空間」に物体を呈示し、実物の把握が困難で鏡像へと手を伸ばし掴もうとする場合を「鏡失認あり」とした。また無視空間から徐々に鏡の表面に物体を把握可能な位置まで近接させ、いったん把握可能となったら再度無視空間へ離し、その物体へのリーチ動作を20回繰り返した。この操作を側方ミラーアプローチとして、前後の半側空間無視と鏡失認症状の変化を記録した。病態失認は片麻痺の否認無関心を示すものを陽性とした。FIM運動項目をADL自立度指標とした。統計手法はWilcoxon test、分割表分析を用いた。【結果】側方ミラーアプローチによるMA症状の経過は、15例中9例で2週間以内に症状が消失し改善を示したが他の6例では改善しなかった。改善群と非改善群との比較では、年齢および初回時のFIMスコアに差は認めなかったが、非改善例においては運動麻痺および半側空間無視が重症であり、病態失認および認知症の合併率が高かった(p<.05)。また終了時のFIMは改善群51.8点に対して非改善群32.5点と有意差を認めた(p<.05)。<BR>【考察とまとめ】鏡失認症状に対する側方ミラーアプローチは臨床的で簡易な方法であり、比較的多数例に有効であるが、中核的症状の重症な例に加え認知症などの全般的脳機能低下が合併すると効果が得られにくいことが示唆された。また側方ミラーアプローチが特異的にMA症状に効果があるかは通常のUSNへのアプローチとの比較が必要であるが、今回はベースライン期を設定していないので言及できない。今後さらに症例を重ね報告する。<BR>

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2007 (0), B0696-B0696, 2008

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205568547456
  • NII論文ID
    130005015276
  • DOI
    10.14900/cjpt.2007.0.b0696.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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