肩甲骨機能不全症に見られた翼状肩甲の一例
説明
【目的】〔目的〕一般に翼状肩甲は長胸神経麻痺に因り前鋸筋の作用が消失し、患側肢の肩甲上腕関節(GHJ)で外転や前方挙上すると、患側上背部に翼のように肩甲骨の内側縁が矢状面で浮き上がった状態になる。今回、右肩甲骨機能不全症で翼状肩甲が著明に見られた症例を経験したので検討を加え報告する。〔対象と方法〕対象は25歳の男、平成14年6月単車乗車中、乗用車と衝突、転倒、右肩を地面に直打した。右肩部の疼痛に対し近医で受診したが軽減せず、発症9カ月後、右肩除圧と右腱板試験切開術を受けた。術後1カ月、運動療法が指示された。発症後2年1カ月経過していた。主訴は用便の始末、更衣、重量物の持ち上げ、結帯などの動作が不可能。右GHJの可動域制限なく、自動で150°屈曲可能。椅座位で亜鈴1kgを右手に持ち屈曲90°位で保持ずると右側に翼状肩甲が見られた。MMT結果、右側・前鋸筋は4、僧帽筋上部線維は3、僧帽筋下部線維は0、菱形筋は2、三角筋(前・中・後)は2。右肩甲帯部の表在感覚の脱失なし。運動プログラムは、1。椅座位、最大GHJ挙上位で右下部僧帽筋に徒手抵抗運動、2。椅座位、右GHJ水平伸展運動に徒手抵抗、3。椅座位、右GHJ内旋運動に徒手抵抗、4。立位、GHJ最大挙上位で手の壁歩き、5.右菱形筋に徒手抵抗運動。各運動30回~50回、在宅では4。の運動を午前と午後2回実施。〔結果〕施療8カ月後、僧帽筋上部線維、菱形筋、前鋸筋、三角筋のMMT結果はすべて4。僧帽筋下部線維は視診下でも筋収縮は認めず0で、翼状肩甲に改善みられず。〔考察〕8ヵ月間運動を実施したが右側僧帽筋下部線維のMMTは0で、視診下でも左側のそれと比較して明らかに筋収縮が認めらず非対称的で、翼状肩甲は改善しないままに経過した。その要因は何にあったか。肩甲骨の胸郭結合上での回旋は明確にして、かつ重要な機能グループの筋、僧帽筋上部線維、前鋸筋、僧帽筋下部線維がforce coupleとして遂行されている。特に僧帽筋下部線維と前鋸筋の下部は連結して、上肢を挙上するにつれ肩甲骨の回旋に向けて強力な力を発揮し、肩甲胸郭結合上で肩甲骨下部を支えている(Basmajian,1978)。僧帽筋下部線維の作用が消失すると、肩甲胸郭結合上で肩甲骨下部を支えきれず、3つの筋がforce coupleとして同時に協調して作用しないため、肩甲骨の回旋に乱れが生じ、それが翼状肩甲として表出する結果となったのではないかと考える。〔まとめ〕1)肩甲骨機能不全症に見られた翼状肩甲症に対し運動療法を実施。2)僧帽筋下部線維の筋力は回復せず、翼状肩甲は改善しなかった。3)肩甲骨の胸郭結合上での回旋に重要な役割を果たす僧帽筋上部線維、前鋸筋、僧帽筋下部線維のforce coupleのリズムが崩れ翼状肩甲を惹起したと考える。更なる要因の検証が必要であろう。<BR><BR><BR><BR><BR>
収録刊行物
-
- 理学療法学Supplement
-
理学療法学Supplement 2006 (0), C1324-C1324, 2007
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
- Tweet
詳細情報 詳細情報について
-
- CRID
- 1390001205568567936
-
- NII論文ID
- 130005014129
-
- 本文言語コード
- ja
-
- データソース種別
-
- JaLC
- CiNii Articles
-
- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可