座位両足開閉ステッピング能力と転倒経験について

DOI
  • 小林 薫
    国際医療福祉大学 保健医療学部 理学療法学科 国際医療福祉大学大学院 保健医療学専攻 理学療法学分野
  • 丸山 仁司
    国際医療福祉大学 保健医療学部 理学療法学科

書誌事項

タイトル別名
  • 後期高齢者を対象とした検討

抄録

【目的】<BR> 木村(2009)は、普段の生活で「つまずき」や「ふらつき」を感じている者は男性59.2%、女性71.0%であると報告している。また、Bergら(1997)は姿勢が乱れて支持基底面から重心が逸脱したとき、いかに素早く1歩を踏み出して体重支持できるかという能力が転倒回避には必要であると報告している。つまり、転倒評価において、転倒を回避するための素早いステップ能力、すなわち敏捷性(agility)を評価することは重要である。座位両足開閉ステッピング(以下開閉ステッピング)とは、敏捷性を評価するためのセルフテストである両足開閉を筆者らが一部改変し名称を変更したものである。筆者らは、開閉ステッピングの検者内・検者間信頼性はともに級内相関係数(ICC)が0.9以上であることを報告した。本研究では、開閉ステッピングを臨床での転倒評価に応用することを目的に、開閉ステッピング能力と転倒経験について検討した。<BR><BR>【方法】<BR> 被験者は中枢神経疾患の既往がなく、歩行が自立している後期高齢者51名(男性7名、女性44名:平均年齢79.0±2.9歳)とした。各被験者に過去1年間の転倒経験を聴取し、転倒群と非転倒群に分類した。転倒は、「同一平面上でバランスを失い、倒れたもの」とする東京消防庁の定義に準じ、転落や墜落と区別して扱った。開閉ステッピングは、1)被験者はパイプ椅子上椅座位で両足(裸足)を自作した簡易測定ボード(縦30cm×横30cm×厚さ3cm)の中央に揃えてのせ、上肢は椅子座面の側端を把持させた。2)検者の合図で被験者は可能な限り速く両足を左右同時に開き、足底でボード外の床をタッチし、素早く元の位置に戻す。この一連動作を1回と数え、10秒間に素早く何回反復できたかを検者が測定する。測定は1回の練習後、30秒程度の間隔で2回実施し、最大値を施行回数として採用した。また、2回の測定の平均値および標準偏差から、開閉ステッピングの変動係数(以下CV)(%)を算出した。統計学的手法は、転倒群と非転倒群の比較にMann-Whitney検定を用いた。なお、統計ソフトウェアはSPSS 15.0J for Windowsを使用し、有意水準はそれぞれ5%未満とした。<BR><BR>【説明と同意】<BR> 本研究の参加は任意であり、研究への参加に同意しないことによる不利益は一切受けないことを説明した。また、研究に参加した後、いつでも同意を撤回することができ、そのことによる不利益も一切受けないことを説明した。本研究の目的と内容を十分説明し、同意の得られた者を被験者とした。<BR><BR>【結果】<BR> 転倒群は20名(男性4名、女性16名:平均年齢78.9±3.0歳)、非転倒群は31名(男性3名、女性28名:平均年齢79.1±2.9歳)であり、群間の平均年齢に有意差は認めなかった。開閉ステッピングの平均施行回数およびCVは、転倒群11.7±2.3回、CV4.7±4.5%、非転倒群15.5±2.1回、CV5.9±4.2%であり、非転倒群に比べ、転倒群の施行回数が有意に減少していた。CVに有意差は認めなかった。<BR><BR>【考察】<BR> 後期高齢者を対象に10秒間の開閉ステッピングを実施した結果、非転倒群に比べ転倒群の施行回数が有意に減少していた。本来、本研究で用いた開閉ステッピングは敏捷性を評価するテストである。この敏捷性は、スピード、平衡性、協応性によって決定されると考えられている。スピードは全身または局部の急速な筋活動の要素を含んでおり、平衡性は立位保持や歩行などにとって重要な能力要素である。協応性は筋力、柔軟性、平衡性、タイミングなどに関連することが報告されている。これらの身体要素は加齢により低下することや転倒リスクを増大させる内的要因であることが報告されている。つまり、敏捷性を評価する開閉ステッピングはこれらの身体要素を反映し、非転倒群に比べより低下していることが予測される転倒群で施行回数の減少を認めたと推察した。しかし、本研究では敏捷性を構成するどの要素の低下が結果に影響したのか分からないため今後の課題となった。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 開閉ステッピングは椅子座位で安全に実施でき、かつ特別な機器を必要とせず誰でもどこでもできるため、高齢者など臨床で幅広く応用できる。本研究の結果は、評価自体にリスクの少ない新たな転倒評価としての可能性があることに意義がある。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), EcOF1105-EcOF1105, 2011

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205570968960
  • NII論文ID
    130005017746
  • DOI
    10.14900/cjpt.2010.0.ecof1105.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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