虚弱高齢者でも安全に行なえる簡易下肢・体幹トレーニング法の開発

DOI
  • 相島 孝行
    医療法人 ひらまつ病院 ひらまつふれあいクリニック 通所リハビリテーション
  • 村田 伸
    西九州大学 リハビリテーション学部
  • 新郷 修二
    医療法人 ひらまつ病院 リハビリテーション科
  • 島内 順子
    医療法人 ひらまつ病院 ひらまつふれあいクリニック 通所リハビリテーション
  • 熊谷 祥子
    医療法人 ひらまつ病院 リハビリテーション科

抄録

【目的】我々は、先行研究で健常成人や要介護高齢者ならびに脳卒中片麻痺患者を対象に、下肢荷重力測定で得られた下肢荷重力が、下肢筋力(大腿四頭筋筋力)や体幹機能(バランス能力)と密接に関係することを筋電図学的分析や重心動揺計を用いて明らかにした。本研究は、市販体重計を用いて簡便かつ安全・定量的に測定が行える下肢荷重力測定法を応用した下肢荷重力トレーニングが、虚弱高齢者の身体機能に及ぼす効果を検討した。<BR>【方法】対象は、2箇所の通所施設を利用している60名(男性30名、女性30名)の虚弱もしくは軽度要介護高齢者であり、年齢と体重はそれぞれ78.4±1.1歳、56.7±1.6kgであった。これらの対象者は、重度の認知症を認めない事、週3回の施設利用が可能な事、本研究で行う全ての測定が行えることを満たした。また、対象者を性別と年齢による層別化無作為割付け法を用いて、男女15名ずつの介入群(30名)と統制群(30名)に分類した。下肢荷重力の測定は、治療台(プラットホーム型:高さ42cm)に端座位をとり、足底に体重計を置いた状態で治療台端と膝下部間を約10cm空けた。下肢で体重計を垂直方向に最大努力下で5秒間押された。その際、体幹の動きの制限はせず、体重計の押し易い姿勢をとらせたが、臀部を治療台から離さないように留意した。測定は左右2回ずつ行い、最大値の合計を下肢荷重力(kg)とし、体重比百分率(%)に換算して分析した。身体機能の測定は、握力、大腿四頭筋筋力、歩行速度(5mの最速歩行)、Timed up & go test(TUG)、立ち上がり回数を測定した。立ち上がり回数の測定は、開始姿勢を高さ40cmのパイプ椅子に両手を膝の上に置いた座位姿勢とし、10秒間に何回立ち上がれるかを測定した。握力と大腿四頭筋筋力は、左右とも2回測定し、その最大値の合計を体重比百分率(%)に換算して分析した。歩行速度とTUGの測定はともに2回行い、その最速値を採用した。下肢荷重力トレーニングの介入は、1日15分間の運動を週3回の頻度で12週間実施した。下肢荷重力トレーニングは下肢荷重力の測定方法と同様の方法で、体重計を垂直方向に5秒間踏みつける運動を左右交互に繰り返した。運動強度は、介入前に実施した最大下肢荷重値の80%を目安に踏みつけてもらった。なお運動強度は、トレーニング開始の4週目と8週目に、最大下肢荷重力を測定し、その測定値に基づく80%の負荷量に調整した。下肢荷重力トレーニングを行なわない統制群には、特別な運動は行わず、通常通りの生活を送ってもらった。統計処理は、下肢荷重力と身体機能の関係を、ピアソンの相関係数を用いて検討し、下肢荷重力トレーニング前の介入群と統制群の特性比較には、対応のないt検定を用いた。また、下肢荷重力トレーニングの効果判定は繰り返しのある二元配置分散分析(群×時間)を用いて検討した。<BR>【説明と同意】対象者には研究の目的を十分に説明し、書面にて同意を得て行った。また、本研究は西九州大学倫理委員会の承認を受けた。<BR>【結果】下肢荷重力と各身体機能との関係は、大腿四頭筋筋力(r=0.51,p<0.01)、歩行速度(r=0.51,p<0.01)、TUG(r=-0.38,p<0.05)、立ち上がり回数(r=0.50,p<0.01)との間に有意な相関が認められた。ただし、握力とは有意な相関は認められなかった。下肢荷重力トレーニング前の介入群と統制群の特性比較では、介入群および統制群、それぞれにおける年齢、体重、下肢荷重力、各身体機能全ての測定値に有意差は認められなかった。下肢荷重力トレーニング前後の比較では、介入群の下肢荷重力は、トレーニング後有意(p<0.01)に高まり、統制群と比較しても有意(p<0.01)に高値を示した。また、介入群の大腿四頭筋筋力(p<0.01)と歩行速度(p<0.05)は、トレーニング後有意に高まり、大腿四頭筋筋力は統制群と比較しても有意(p<0.05)に高値を示した。歩行速度は、統制群との比較では有意差は認められなかった。その他、握力、TUG、立ち上がり回数の3項目にはトレーニング前後で有意な差は認められなかった。<BR>【考察】本研究では、12週間の下肢荷重力トレーニングを虚弱高齢者に対して実施し、そのトレーニング効果を判定した。その結果、下肢荷重力トレーニングは、短期間に虚弱高齢者の下肢筋力や歩行能力を向上できる有用な方法であることが確認された。ただし、握力、TUG、立ち上がり回数には効果が認められず、それらの機能を高めるには、バランストレーニングなど、その他のメニューを追加する必要性が示された。<BR>【理学療法学研究としての意義】この簡便かつ安価で安全にどこでも出来る下肢荷重力トレーニングが歩行能力向上にも寄与することが判明した事は、虚弱高齢者の健康増進トレーニングとして期待できる。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), EcOF2094-EcOF2094, 2011

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205570988672
  • NII論文ID
    130005017755
  • DOI
    10.14900/cjpt.2010.0.ecof2094.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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