高齢者の身体機能におけるSF-36,改訂版転倒自己効力感尺度の特異性について

Description

【目的】<BR> 日常的に臨床現場でよく使用される評価スケールにも選択,情報バイアスなどが生じる。このようなバイアス,評価スケールの特徴を理解した上で,その結果を解釈し理学療法プログラムに反映していくことが大切だと考える。特に質問紙調査など,調査項目が多数存在する場合,評価スケール全体の合計点などで対象者を評価,判断するだけでは不十分な場合もある。各小項目にも着目し,その結果を解釈することが重要だと考えられる。そこで,本研究の目的は,高齢者の身体機能における健康関連Quality of Life(HRQOL)や転倒恐怖感と関係のある転倒自己効力感の測定に使用される質問紙調査の特異性を明らかにすることである。<BR><BR>【方法】<BR> 対象は,介護老人保健施設に通所,入所しており屋内歩行が自立している高齢者29名(78.0±8.3歳)とした。男性11名,女性18名であった。<BR>質問紙調査は,HRQOLの評価としてSF-36と転倒自己効力感の評価には改訂版転倒自己効力感尺度(MFES)に回答してもらった。<BR>身体機能評価は,全身筋力の指標として握力,歩行能力の指標として,最大10m歩行時間を計測した。バランス評価として, ファンクショナルリーチテスト(FR),Berg Balance Scale(BBS)を測定した。<BR> 統計解析は,まずSF-36v2 日本語版 Scoring Algorithmに従いSF-36の各下位尺度得点を算出した。MFESにおいては,各項目の関係も調査するために因子分析を行った。次にSF-36の下位尺度とMFESの因子,各身体機能評価との関連をみるためスペアマンの順位相関係数を求めた。すべての検定における有意水準はp=0.05とした。統計解析には,SPSS12.0Jを用いた。<BR><BR>【説明と同意】<BR> 研究への参加は任意であり,調査当日に研究に対する詳細な説明をし,同意書に署名を得た者を対象とした。<BR><BR>【結果】<BR> SF-36の下位尺度得点は,身体機能(PF)22.5±16.2点,日常生活役割(身体)(RP)29.8±19.7点,体の痛み(BP)43.3±14.0点,全体的健康感(GH)41.0±14.1点,活力(VT)46.5±12.7点,社会生活機能(SF)33.3±18.0点,日常生活役割(精神)(RE)38.5±16.1点,心の健康(MH)43.5±13.3点であった。各身体機能評価項目は,握力16.6±8.8kg,FR18.7±5.5cm,最大10m歩行14.6±10.1s,BBS44.1±6.4点,MFES95.0±33.5点であった。<BR> MFESの因子分析の結果は,項目番号で因子1:{02,03,06,09,10,11,12,13},因子2:{01,04,08},因子3:{05,07,14}に分類された。<BR>SF-36の下位尺度と身体機能との関連性は,握力,FRに関しては各下位尺度において相関は認められなかった。一方,最大10m歩行とBBSには有意な相関が認められた。しかし,最大10m歩行では下位尺度のVT,MH,BBSではRP,SF,最大10m歩行,BBSの双方でREに相関が認められなかった。<BR>各MFES因子と身体機能の関連性は,握力,FRで相関は認められず,最大10m歩行とは有意な負の相関,BBSとは因子1においてのみ認められた。<BR><BR>【考察】<BR> MFESの因子分析の結果,その項目内容から因子1は屋外での活動,因子2は屋内での日常生活活動,因子3は起居動作能力に分類されたと考えられる。<BR>基本的な身体機能を抽出する握力やFRとSF-36やMFESに関連性が認められなかったことから,筋力などの身体機能はHRQOLや転倒恐怖感への関わりは低いと推察される。また,SF-36において心理的,精神的な下位尺度は,最大10m歩行やBBSなどパフォーマンスを評価する運動課題と関連性が低いことから,パフォーマンスの向上が,直接HRQOLの向上には繋がらないと考えられる。<BR>MFES因子1と最大10m歩行,BBSに関連性が認められたことから,対象者の意識を屋外に向けさせるためには,歩行能力,バランス能力の向上といった応用的動作能力の改善が重要だと考えられる。<BR>SF-36の下位尺度RP,SFと最大10m歩行との関連性が認められたことから,身体機能を連想させるHRQOLにおいては,BBSに含まれる日常動作よりも歩行能力の向上がHRQOLの改善に結びつくと推察される。<BR> 高齢者において,身体機能と精神心理機能に関連性は認められなかったが,社会的参加や日常生活でも身体機能を連想させるようなHRQOLは,歩行能力の向上によりHRQOLが改善される可能性が示唆された。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 評価スケールの特徴を把握し,より詳細な生活・運動指導,理学療法プログラム立案の一助になると考えられる。

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Details 詳細情報について

  • CRID
    1390001205571097856
  • NII Article ID
    130005017729
  • DOI
    10.14900/cjpt.2010.0.ebpi2440.0
  • Text Lang
    ja
  • Data Source
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • Abstract License Flag
    Disallowed

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