異なるジャンプ着地動作による膝関節周囲筋の筋活動開始時間の違い

この論文をさがす

説明

【目的】膝関節のスポーツ外傷で最も発生頻度が高い非接触型膝前十字靭帯(ACL)損傷の受傷機転にはジャンプ着地動作があり、これまで諸家によりジャンプ着地動作時の膝関節周囲筋活動が報告されてきた。これらの研究では膝関節伸展筋である大腿四頭筋と屈曲筋であるハムストリングの筋活動量を比較し、ハムストリングの筋活動量が少ないことがACL損傷の危険因子となると考えられている。ランニング時など下肢関節に衝撃が加わる際には、事前に下肢筋の活動を開始させ衝撃に備えるため (Demont et al, 2004)、ジャンプ着地動作時にも膝関節を含めた下肢関節への衝撃に備えるように、あらかじめ筋活動が開始している可能性がある。しかしながら、ジャンプ着地動作時の筋活動開始時間の報告は少なく、不明なことが多い。そこで本研究はACL損傷受傷機転のひとつであるジャンプ着地動作に注目し、両脚着地と片脚着地の違いで下肢筋の活動開始時間が異なるか明らかにすることを目的に行った。片脚着地では両脚着地よりも筋の活動開始時間が早いと仮説をたてた。<BR>【方法】対象は下肢関節にジャンプ着地動作に影響を及ぼす疾患を有していない健康な男子大学生10名(年齢21.7±1.1歳、身長174.5±5.6cm、体重72.3±7.2kg)とした。課題動作は40cm台からの両脚および片脚ジャンプ着地動作とした。ジャンプ着地動作時の筋活動開始時間の測定には表面筋電図Personal-EMG(追坂電子機器社)を使用し、被験筋は内側広筋(VM)、外側広筋(VL)、半膜様筋(SM)、大腿二頭筋(BF)の4筋とした。測定は全て左下肢にて行った。筋活動開始時間は、台上での足尖離地後100ms間の振幅を基準筋活動とし、その平均+3SDを超えた時点と定義した。各筋の筋活動開始時間の差の検定は一元配置分散分析を行い、多重比較にSheffeのFテストを用いた。両脚と片脚でのジャンプ着地動作時の各筋の活動開始時間の差の検定には、対応のあるt検定を行った。いずれも危険率5%未満を有意とした。<BR>【説明と同意】全対象に事前に本研究の内容と方法を口頭および書面にて説明し同意を得た。なお、本研究は新潟リハビリテーション大学倫理委員会(承認番号23)および広島大学大学院保健学研究科心身機能生活制御科学講座倫理委員会(承認番号0948)の承認を得た。<BR>【結果】40cm台での足尖離地後、床への足尖接地までの所要時間は両脚ジャンプ着地動作で平均352.8±49.2ms、片脚ジャンプ着地動作で365.5±28.2msだった。両脚ジャンプ着地動作時の筋活動開始時間は足尖離地から足尖接地までを100%とすると、VMで足尖離地後87.1±12.8%、VLで85.4±14.3%、SMで79.6±7.6%、BFで80.6±6.8%だった。片脚ジャンプ着地動作時ではVMで77.8±13.7%、VLで70.6±15.5%、SMで75.0±6.7%、BFで73.9±6.4%となった。両脚および片脚ジャンプ着地動作ともに4筋の活動開始時間に有意な差は認められなかった。両脚と片脚でのジャンプ着地動作時の各筋の活動開始時間を比較すると全ての筋において、片脚での筋活動開始時間が早かった(p<0.05)。<BR>【考察】ACL損傷はジャンプ着地後100ms間に発生しているとされ(Schmitz et al, 2007)、ACLを保護するには床面への足尖接地後に筋活動が開始するのでは既に遅く、ジャンプ着地前の一定時間から筋活動を開始することが必要となる。片脚ジャンプ着地動作時には両脚ジャンプ着地動作時よりも膝関節に大きな衝撃が加わるため、より早期に活動を開始することで衝撃に備えていると考えられる。これまで、大腿四頭筋の収縮はACLに張力を与え、ハムストリングの収縮はACLに加わる張力を減じると報告されているが(Markolf et al, 1978)、本研究の結果からは、大腿四頭筋(VMおよびVL)とハムストリング(SMとBF)の筋活動開始時間の差は明らかにならなかった。しかしながら、両脚ジャンプ着地動作では大腿四頭筋よりもハムストリングが5~8%早く活動を開始しており、対象を増やすことで大腿四頭筋とハムストリングの筋活動開始時間に有意差が認められるかもしれない。両脚と片脚でのジャンプ着地動作を比較すると、片脚ジャンプ着地動作時の筋活動開始時間は、大腿四頭筋では10~15%、ハムストリングでは5%早かった。大腿四頭筋の収縮はACLに張力を加えるため、大腿四頭筋がハムストリングよりも早期から活動を開始した状態でジャンプ着地動作を行うことは、ACLを損傷する一要因となると考えた。<BR>【理学療法学研究としての意義】筋活動開始時間を明らかにする目的でACL損傷の受傷機転動作時の筋活動を調査した報告は少ない。本研究では、ジャンプ着地動作が変化することで筋活動開始時間が異なることを示した。今後は膝関節に加わる衝撃の大きさと筋活動開始時間の関係を明らかにすることで、ACL損傷の原因解明への糸口になると考える。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), CcOF1079-CcOF1079, 2011

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

詳細情報 詳細情報について

問題の指摘

ページトップへ