前十字靱帯不全膝の動態

DOI
  • 井野 拓実
    悠康会 函館整形外科クリニック リハビリテーション科 北海道大学大学院保健科学研究院 機能回復分野
  • 大角 侑平
    悠康会 函館整形外科クリニック リハビリテーション科
  • 小竹 諭
    悠康会 函館整形外科クリニック リハビリテーション科
  • 三好 徹
    悠康会 函館整形外科クリニック リハビリテーション科
  • 上原 桐乃
    悠康会 函館整形外科クリニック リハビリテーション科
  • 吉田 俊教
    悠康会 函館整形外科クリニック リハビリテーション科
  • 前田 龍智
    悠康会 函館整形外科クリニック 整形外科
  • 鈴木 航
    悠康会 函館整形外科クリニック 整形外科
  • 大越 康充
    悠康会 函館整形外科クリニック 整形外科
  • 川上 健作
    函館工業高等専門学校 機械工学科
  • 鈴木 昭二
    はこだて未来大学 情報アーキテクチャ学科
  • 加藤 浩仁
    はこだて未来大学 情報アーキテクチャ学科
  • 山中 正紀
    北海道大学大学院保健科学研究院 機能回復分野

書誌事項

タイトル別名
  • ポイントクラスター法による歩行分析

抄録

【目的】<BR>膝前十字靭帯(ACL)不全における膝崩れや不安定感等の症状はADL動作やスポーツ動作など動的環境で生じる。また長期経過において関節症変化の発生が報告されている[1]。従来、本症の病態を捉えることを目的に屍体膝やX線透視撮影法などによる研究が行われてきたが、これらは静的または限られた動的環境での計測であるために、本症の病態の解明には十分ではなかった。これに対して、体表マーカーを用いるポイントクラスター法は動作に制限を加えずに動的環境で膝関節の運動を解析可能である[2]。また本法はクラスターマーカー・システムに最適化法を用いることで皮膚のズレによる計測誤差を減じる手法がとられており、かつ膝関節の6自由度運動を解析可能であるため、近年膝関節の機能評価として注目されている。本研究の目的は定常歩行におけるACL不全膝の動態を解明することである。<BR>【方法】<BR>対象は片側ACL損傷11例22膝(男性8例 女性3例、年齢24.1±11.9歳、BMI 22.5±2.8 kg/m2、受傷-計測期間 2.7±1.5カ月)とし、これをACL不全群患側および健側とした。全例計測時に疼痛や跛行は認められなかった。また対照群は性別、年齢、BMIによりマッチングされた健常21例42膝(男性11例 女性10例、年齢27.0±7.2歳、BMI 20.6±2.4 kg/m2)とした。計測は赤外線カメラ4台(ProReflex、Qualisys AB社製、120Hz)と床反力計2枚(OR6、AMTI社製、120Hz)からなる三次元動作解析装置を用い、被検者の定常歩行を計測した。得られたデータは動作解析ソフト(Qualisis Track Manager 3D)によりデータ処理を行い、ポイントクラスター法により膝関節の屈伸、脛骨の内外旋・前後並進を算出した。なお、膝関節完全伸展位の静止立位を各々のパラメータのゼロ・ポジションとした。算出されたデータは一歩行周期を100%として規格化し、ACL不全群の患側と健側、および対照群で比較検討した。統計は一元配置分散分析およびFisher’s PLSD多重比較検定(P<0.05)を用いた。<BR>【説明と同意】<BR>すべての被検者には計測前に十分なインフォームド・コンセントがなされた。また本研究は生命倫理委員会の承認を受け実施された。<BR>【結果】立脚期における膝関節の最大屈曲角度は患側18.7±7.4°、健側14.6±10.4°、対照群22.7±6.6°であり、ACL不全群の患側と健側はいずれも対照群と較べ有意に小さかった(P<0.01)。またACL不全群の患側と健側は立脚期において脛骨が内旋・後方偏位となる傾向が認められた。ACL不全群の立脚期における屈伸角度の変化量は患側が7.6±6.5°、健側が11.5±8.0°であり、対照群の14.5±4.8°と較べ患側が有意に小さかった(P<0.01)。<BR>【考察】<BR>本研究結果からACL不全膝は立脚期に膝関節をより伸展位に保ち、かつ脛骨を内旋・後方に位置するように歩行している事が明らかになった。先行研究においてACL不全膝の脛骨の前方不安定性に対する適応的代償変化として、大腿四頭筋モーメントを減じるように歩行するいわゆるquadriceps avoidance gaitが報告されており[3]、本研究結果はこれと矛盾しないと考えられた。またこの変化はACL不全群の健側にも認めた事から、このような適応変化は両側性に現れる事が示唆された。ACL不全膝は健常膝と較べ、立脚期の屈伸運動が減少していた。この所見は、大腿四頭筋とハムストリングスを同時収縮させ関節運動を減じ関節を安定化させるstiffening strategyと考えられた[4]。<BR>本研究で明らかになった大腿脛骨関節の回旋異常は関節不適合を招来し、それによる軟骨接点の変化は半月板機能発現の低下を来たすと考えられた。また立脚期の屈伸運動の減少、即ちdouble knee actionの減少は膝関節における衝撃吸収能力を低下させるものと考えられた。これらは長期経過において関節症変化の一因となる可能性がある。またACL損傷後に生じる大腿四頭筋萎縮の要因としては、組織損傷や安静による廃用だけではなく、膝の前方不安定性に対する適応変化として生じる大腿四頭筋の筋出力低下も関与すると考えられた。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>本研究で明らかにしたACL不全膝における歩行動態は本症の病態に関する運動学的理解や臨床評価の一助となると考えられる。<BR><BR>REFERENCES:<BR>[1] Fithian DC, Paxton LW, Goltz DH. Orthop Clin North Am. 33:621&#8211;636, 2002. [2] Andriacchi, T.P. et al. J. Biomechanical Eng. 120:743-749, 1998. [3] Berchuck M et al. J Bone Joint Surg Am. 72(6):871-877, 1990. [4] Hurd WJ, Snyder-Mackler L. J. Orthop. Res. 25(10):1369-1377, 2007.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), CcOF2074-CcOF2074, 2011

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205571220736
  • NII論文ID
    130005017367
  • DOI
    10.14900/cjpt.2010.0.ccof2074.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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