頭頸部癌術後患者の頸部側屈角度と側方リーチ距離・坐圧中心移動距離との関係について

DOI
  • 堀 弘明
    北海道大学病院 リハビリテーション部
  • 堀 享一
    北海道大学病院 リハビリテーション部
  • 由利 真
    北海道大学病院 リハビリテーション部
  • 千葉 健
    北海道大学病院 リハビリテーション部
  • 伊藤 崇倫
    北海道大学病院 リハビリテーション部

抄録

【はじめに、目的】 頭頸部癌は早期から頸部リンパ節に転移するため頸部郭清術は重要な手術である.手術により頸部リンパ組織を胸鎖乳突筋,内頚静脈,副神経と一塊切除することで,術後に頸部・上肢の関節可動域制限や筋力低下などを生じる.また,理学療法を実施する中で温存による術式でも同様の機能障害や片脚立位・継足歩行困難などの能力低下を生じる患者を経験する.胸鎖乳突筋は,坐位側方傾斜時の頭部側屈に関与し,また,坐位側方リーチは歩行能力や転倒との関係が報告されている.そのため,頭頸部癌術後患者の患側頸部は側方バランス能力に影響すると考え,本研究は頭頸部癌術後患者に対し坐位側方リーチ課題時の頸部側屈角度が側方リーチ距離・坐圧中心移動距離との関係を検討することを目的とした.【方法】 対象者は,北海道大学病院に入院し頸部郭清術を施行され,術後理学療法を実施した7名とした.除外基準は,原疾患以外の既往歴がある者,疼痛が強く運動が困難な者.また,坐位傾斜反応の頸部側屈角度は10度前後と報告されているため頸部側屈可動域20度未満の者とした.計測は,高さ70cmの台の上に重心動揺計(アニマ社製:GRAVICORDER G-5500)を設置し,その上に足底非接地の端坐位とし,背側にはホワイトボードを設置した.運動課題は健側と患側の側方リーチ動作とした.対象者は手術の影響で肩関節外転保持が困難な者も存在するためNewtonのMulti-Directional Reach Testを改変した荒尾の方法を使用した.荒尾の方法は,健側方向へは健側肩関節90度外転位から側方リーチ動作を行い,患側方向へは健側方向と同じ開始肢位から患側方向へ重心移動を行い測定する方法である.本研究の運動課題として,健側側方リーチは健側肩関節90度外転,肘関節伸展,前腕回外で手指先端位置を計測した後,背側のホワイトボードに肩の高さに固定したメジャーに沿って健側側方に最大リーチ動作した課題とした.患側側方リーチは,健側方向と同じ開始肢位から上肢をメジャーと平行に保ちながら患側側方に最大重心移動した課題とした.この時,患側への体幹側屈,肩関節内転,肘関節屈曲の代償動作に注意し実施した.また,重心動揺計から動作時の坐圧中心点からの移動距離(以下:坐圧中心移動距離)を測定し,サンプリング周波数20Hzで動作と同期させて計測した.側方リーチ距離と坐圧中心移動距離は3回計測し最大距離を使用した.リーチ動作時の頸部側屈角度を測定するために対象者の両耳介・両肩峰に身体指標を貼付し,水平水準器で水平位に固定したハードディスク・ムービーカメラ(victor:G2-MG740)でリーチ動作を撮影した.対象者とカメラとの距離は6mとした.撮影した動画をパーソナルコンピュータに取り込み,最大リーチ時の静止画を取り出し,フリーウェアのImage Jにて水平線と両耳介を結んだ角度,水平線と両肩峰を結んだ角度から傾斜角を算出し,両耳介傾斜角度から両肩峰傾斜角度を差し引いた値を両肩峰に対する頸部側屈角度とした.その角度が,リーチ方向と逆方向の頸部の側屈運動が生じる方向を正とした.比較検討は,健側・患側方向の頸部側屈角度,側方リーチ距離,坐圧中心移動距離とし,統計処理はMann-whitney U検定とSpeamanの順位相関係数を用い危険率5%未満を有意とした.【倫理的配慮、説明と同意】 北海道大学病院の自主研究検査機関の承認を受け,対象者本人の自由意思による文書同意を得て行った.【結果】 健側側方リーチの頸部側屈角度-4.8±5.8度,患側側方リーチの頸部側屈角度10.7±5.5度となり有意差を認めた(p<0.05).健側側方リーチの側方リーチ距離21.5±4.2cm,患側側方リーチの側方リーチ距離28.9±6.0cmとなり有意差を認めた(p<0.05).健側側方リーチの坐圧中心移動距離6.4±1.2cm,患側側方リーチの坐圧中心移動距離8.6±2.3cmとなり有意差を認めた(p<0.05). 患側側方リーチの頸部側屈角度と側方リーチ距離の相関係数r=0.745(p=0.054)で相関は認められず,頸部側屈角度と坐圧中心移動距離は相関係数r=0.775で有意な相関を認めた(p<0.05).健側側方リーチの頸部側屈角度と側方リーチ距離の相関係数r=-0.491,頸部側屈角度と坐圧中心移動距離の相関係数r=-0.357ともに相関は認められなかった.【考察】 藤田らは,坐位の正常姿勢を維持するのに頸部の重要性を報告している.本研究結果から,健側方向の側方リーチ距離と坐圧移動距離が減少したのは患側の頸部側屈角度が影響していると考えられ,頭頸部癌術後患者は坐位バランス能力に左右差が生じている可能性が示唆された.今後は,立バランスとの関係も検討していきたいと考える.【理学療法学研究としての意義】 頭頸部術後患者は,歩行・応用動作能力低下や転倒の危険が予測されため,一般的な評価と同様に坐位バランス評価も実施する必要性を提示した.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2011 (0), Db1221-Db1221, 2012

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205571225344
  • NII論文ID
    130004693349
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.db1221.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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