肩腱板断裂に対するスクリーニングテストの有用性の検討
書誌事項
- タイトル別名
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- いわゆる肩甲下筋テストに着目して
説明
【目的】<BR> 肩腱板断裂に対するスクリーニングテストとしては、腱板機能テストである棘上筋テスト(以下SSP-t)、棘下筋テスト(以下ISP-t)、肩甲下筋テスト(以下SSC-t)などがある。この中でも、SSC-tに関して当院では、以前は肩内転0度かつ最大内旋位で保持させた状態で、前腕に肩外旋方向の抵抗を加える方法(以下A法)で実施していた。しかし、2010年4月より、肩軽度外転かつ最大内旋位で保持させた状態で、肘に肩外旋方向の抵抗を加える方法(以下B法)で実施している。また、SSC-tは一般的に肩甲下筋の機能を評価する方法であるが、臨床では、棘上筋単独断裂でSSC-tが陽性となる事や、肩甲下筋の断裂を含んでいても棘上筋テストの方が陽性となるなど、肩甲下筋の機能だけでなく、肩腱板断裂全体に対しての評価となると考えられる。そこで今回、これら2つのSSC-tにおける肩腱板断裂に対するスクリーニングテストとしての有用性を比較検討し、さらにSSP-t、ISP-tとの比較も行いその有用性の検討を行った。<BR><BR>【方法】<BR> 対象は、A法、B法を両方同時に実施している患者がいないため、A法、B法それぞれ腱板断裂40名、肩関節周囲炎40名の計160名とした。なお、腱板断裂は全例手術中に腱板断裂が確認された患者とし、肩関節周囲炎は関節造影、MRI、術中所見のいずれかによって腱板断裂が認められなかった患者とした。また、健側は全て腱板断裂の既往がなく、その筋力が3つの腱板機能テスト全てで5であったものとした。なお、筋力のレベル付けは徒手筋力検査法(以下MMT)に準じて行った。<BR> 先行研究により、痛みだけの評価だけでなく、筋力の評価も加えることで腱板機能テストとしての精度が向上するとの報告があるため、全てのテストに関して、「痛みを生じる、または筋力が4未満のもの」を陽性とした。この条件のもと、比較は全て陽性予測値、陰性予測値を算出することにより行った。まずSSC-t内での比較として、A法またはB法のみで判断した場合の値の比較を行った。次に、より有用性が高かったSSC-tとSSP-t、ISP-tとの比較を行うために、(ア)SSP-tのみで判断した場合の値、(イ)ISP-tのみで判断した場合の値、(ウ)SSP-t、ISP-tどちらか1つでも陽性であった場合の値、(エ)SSP-t、ISP-t、SSC-tどれか1つでも陽性であった場合の値、(オ)SSP-t、ISP-tともに陽性であった場合の値、(カ)SSP-t、ISP-t、SSC-t全て陽性であった場合の値、の6通りで比較を行った。<BR><BR>【説明と同意】<BR> MMT実施時に研究の趣旨を説明し同意を得た。<BR><BR>【結果】<BR> 結果は全て陽性予測値、陰性予測値の順に記載する。A法が25.0%、45.6%、B法が56.6%、63.0%であった。このため、上記6通りの値をB法を実施した患者80名のデータを用いて算出すると、(ア)では62.1%、81.8%、(イ)では78.0%、79.5%、(ウ)では62.3%、89.5%、(エ)では55.6%、100.0%、(オ)では78.9%、76.2%、(カ)では80.0%、68.0%であった。<BR><BR>【考察】<BR> 今回の結果より、まずSSC-t内の比較では、B法の方が陽性予測値、陰性予測値ともに高く、A法より有用性が高いと考えられた。これは、B法の方が大円筋等、腱板以外の内旋筋の代償が最小限になるためと考えた。次に、B法とSSP-t、ISP-tを比較すると、(ア)、(イ)の値から分かるように、それ単独ではB法はSSP-t、ISP-tより陽性予測値、陰性予測値ともに低く、有用性が低いと考えられた。しかし、(ウ)や(オ)のように、SSP-t、ISP-t、2つのみを複合した結果よりも、(エ)や(カ)のように、2つに加えてB法も含めた結果の方が、(エ)では陰性予測値が、(カ)では陽性予測値がやや高値であった。このため、B法はSSP-t、ISP-tの補助的に行うことにより、肩腱板断裂に対するスクリーニングテストとして有用性が高くなる可能性があると考えられた。<BR> 今後は、lift-offテストとB法の比較や、肩甲下筋単独断裂患者のみでの検討などによる、肩甲下筋の機能を如何に反映しているかなどの検討を行っていきたい。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 今回の検討により、肩腱板断裂に対するスクリーニングテストとしての、SSC-tにおける方法とその有用性が示唆された。これにより、関節造影やMRIが完備されていない施設における、腱板断裂の有無の判断の一助となる可能性があると考えられた。
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2010 (0), CdPF1025-CdPF1025, 2011
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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キーワード
詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205571235328
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- NII論文ID
- 130005017378
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可