異なるストレッチング手技がハムストリングスの柔軟性に及ぼす即時効果の検討

Description

【目的】ストレッチング(以下;ST)は,関節可動域の改善および維持などを目的に理学療法治療手技の一つとして広く用いられている.ST手技としては, Bob Anderson(1975)が提唱したスタティックST(以下;SS)をはじめバリスティックST,PNFSTなど種々の手技が存在する.近年,筋の伸張時間や手技による比較が報告されつつあるが,それらを明確に比較した報告は少なく,特に他動的および自動的に行うSTを明確に比較検討した報告は少ない.Bandyら(1998)はDynamic Range of Motionという自動的STとSSを比較し,SSにおいて有意な改善を認めたと報告した.また,Winterら(2005)は自動的ST手技とSSを比較して郡間における有意差は認められなかったと報告した.しかしながら,それらの研究報告はST施行時間や肢位の違いなどから,明確な比較とは言い難い.そこで筆者らはそれぞれの手技によるST施行時間や肢位を統一し,自動的および他動的STの効果を比較検討することを目的とした.また,一般的に効果的であるとする報告(Bandy;1995,Glen;2000)が散見されるSSも対象に含めて検討を行った.本研究では,セラピストが直接行う他動的STが最も柔軟性の向上に効果があるのではないかという仮説を立てた.<BR><BR>【方法】対象は健常成人72名,年齢20.6±0.8歳,身長156.1±14.3cm,体重49.3±8.5kg(平均±標準偏差)であった.対象者は無作為に自動的ST群(n=18),他動的ST群(n=18),SS群(n=18),コントロール群(n=18)に割り当てた.自動的および他動的STの方法は,ベッド上に背臥位となり,股関節および膝関節90°屈曲位を開始肢位とし,その状態から膝関節を伸展させることでハムストリングスの伸張を行った.SS群はベッド上に長座位となり,骨盤前傾位で体幹を前傾させることでハムストリングスの伸張を行った.ST施行時間は全ての群において10秒間伸張後に10秒間休憩を挟み再度STを施行する間歇的な手技を5セット施行した.ハムストリングスの柔軟性の評価には自動的膝伸展テスト(以下;AKET)を用いた.AKETはST施行前と施行直後に測定した.施行前と施行後の群間の比較には一元配置分散分析(以下;ANOVA)を使用し,多重比較にはTukey法を用いた.有意水準は5%未満とした.<BR><BR>【説明と同意】対象者には事前に本研究の趣旨と測定内容に関する説明を十分に行い,紙面で同意を得た.また,埼玉県立大学倫理委員会の承認を得て行った(承認番号22705).<BR><BR>【結果】ST施行前と比較し,ST施行後では自動的ST群では7.3°,他動的ST群では15.8°,SS群では8.25°のAKET角度の向上を示した.ANOVAの結果,群間におけるST施行前のAKETの値には有意差は認められなかった.ST施行後のAKETの増加値においては,群間における有意差を認めた(p<0.01).多重比較の結果,コントロール群と比較し各ST施行群は有意な柔軟性の改善を認めた(p<0.01).他動的ST群は自動的ST群およびSS群と比較し,有意な改善を認めた(p<0.01).自動的ST群とSS群には有意差は認められなかった.<BR><BR>【考察】今回,他動的ST群において最も有意なAKET角度の改善を認めた.これは,ST施行時に他動群以外の群では対象となるハムストリングスの筋弛緩が不十分であったことが要因として考えられる.自動的STは拮抗筋の収縮を利用し,対象筋の筋弛緩を目的に用いられる(Winter;2005).しかしながら,本研究ではST最終肢位を維持する為に対象筋と拮抗筋の同時収縮が生じたことが示唆される.また,SS群においては骨盤前傾角度によりハムストリングスの伸張効率に個人差が生じてしまう為に,骨盤の影響を除いた他動的ST群の方がより有意な改善を示したことが考えられた.<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】本研究結果から,STはセラピストのような第三者による介入がより効果的であることが示唆された.また,自己で行う自動的ST群およびSS群においてもコントロール群と比較し有意な改善を認めたことから,本研究結果よりSTの有効性を再認識することが出来ると考えられる.

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Details 詳細情報について

  • CRID
    1390001205571238144
  • NII Article ID
    130005017374
  • DOI
    10.14900/cjpt.2010.0.cdpf1021.0
  • Text Lang
    ja
  • Data Source
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • Abstract License Flag
    Disallowed

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