肩甲骨位置および肩甲上腕関節外転可動域と脊柱アライメントとの関連性

DOI
  • 吉田 一也
    早稲田医療技術専門学校理学療法学科 埼玉県立大学大学院保健医療福祉学研究科保健医療福祉学専攻リハビリテーション学専修
  • 江尻 廣樹
    関町病院リハビリテーション科
  • 磯谷 隆介
    関町病院リハビリテーション科
  • 原 和彦
    埼玉県立大学大学院保健医療福祉学研究科保健医療福祉学専攻リハビリテーション学専修
  • 藤縄 理
    埼玉県立大学大学院保健医療福祉学研究科保健医療福祉学専攻リハビリテーション学専修

抄録

【目的】<BR>肩関節複合体(SC)を体幹と連結する肩甲胸郭関節の機能(肩甲骨位置や周囲筋の作用)は、姿勢の影響を受けやすく、脊柱アライメントの評価はSC障害の治療を行う上で重要である。頭部前方位姿勢では、後頭下筋群や胸鎖乳突筋、僧帽筋上部線維等の筋緊張が高まり、鎖骨・肩甲骨の位置や運動に変化が生じるため、脊柱アライメントがSCに及ぼす影響は大きいと考えられるが報告は少ない。一般に、SC障害は肩甲上腕関節に顕著に出現するが、脊柱アライメント異常や肩甲胸郭関節機能異常は症状が出現しにくく、治療上の優先順位が低いことが要因と推察する。そこで本研究の目的は、若年成人男性を対象に肩甲骨位置および肩甲上腕関節外転可動域(GH-Abd)と脊柱アライメントとの関連性を調査し、SC障害の治療を行う上で有用な理学療法評価を検討することとした。<BR>【方法】<BR>対象は運動器疾患・障害のない成人男性27名(年齢25±5歳, 身長172.18±5.40cm, 体重67.81±7.23kg)とした。測定肢位は上半身裸の自然立位で、骨指標点にマーカーを貼付してから測定した。脊柱アライメントは矢状面上での頭位、脊柱弯曲、骨盤傾斜と胸郭周径で評価した。測定項目は頚部屈曲角、円背指数、骨盤傾斜角、胸郭周径、肩甲骨位置、GH-Abdとした。頚部屈曲角はThigpenら(2010)の方法を参考に、外耳孔と第7頚椎棘突起(C7)を結んだ線とC7を通る床への垂線とのなす角を角度計で測定した。円背指数はMilneら(1974)の方法に準じて自在曲線定規で測定し、胸椎後弯指数と腰椎前弯指数を求めた。骨盤傾斜角はLevineら(1996)の方法を参考に、上前腸骨棘と上後腸骨棘を結んだ線と上前腸骨棘を通る水平線とのなす角を角度計で測定した。胸郭周径は田平ら(1996)の方法を参考に、腋窩高、剣状突起高、第10肋骨高の周径をテープメジャーで測定した。肩甲骨位置はC7 o、肩甲棘内側端a、下角b、oから下した垂線とaを通る水平線との交点a’、oから下した垂線とbを通る水平線との交点b’とし、oa’、aa’、ob’、bb’の4つの距離をテープメジャーで測定した。GH-Abdは肩甲骨固定位での他動的肩関節外転可動域を角度計で測定した。なお、胸郭周径と肩甲骨位置は個体差を考慮し、測定値を身長で補正した。統計学的分析方法は、まず測定項目間の相関をみるためにPearsonの相関係数を求め、次に従属変数を肩甲骨位置とGH-Abd、独立変数を脊柱アライメントとして重回帰分析ステップワイズ法により、従属変数に対する関連因子を抽出した。統計解析はSPSS15.0Jを使用し、有意水準はp<0.05とした。<BR>【説明と同意】<BR>本研究は埼玉県立大学倫理委員会で承認され、対象者に研究の趣旨を口頭と文書で説明し書面にて同意を得た。<BR>【結果】<BR>測定結果は、頚部屈曲角40.26±4.05°、胸椎後弯指数7.94±2.14%、腰椎前弯指数6.48±2.37%、骨盤傾斜角4.63±2.37°、腋窩高周径53.51±2.95%、剣状突起高周径50.42±3.59%、第10肋骨高周径44.05±3.45%、肩甲骨位置oa’距離4.09±0.69%、aa’距離5.14±0.63%、ob’距離12.09±0.72%、bb’距離6.01±0.83%、GH-Abd 104.07±11.43°であった。Pearsonの相関係数が有意であったのは、頚部屈曲角と胸椎後弯指数(r=0.41, p=0.04)、胸椎後弯指数とaa’距離(r=0.42, p=0.02)、胸椎後弯指数とbb’距離(r=0.49, p=0.01)、剣状突起高周径とbb’距離(r=0.77, p<0.01)、腰椎前弯指数と骨盤傾斜角(r=0.46, p=0.02)、頚部屈曲角とGH-Abd (r=-0.51, p<0.01)であった。重回帰分析の結果、aa’距離の関連因子として胸椎後弯指数が抽出された(R2=0.17, p=0.03)。bb’距離の関連因子として第1因子に剣状突起高周径、第2因子に胸椎後弯指数が抽出された(R2=0.67, p<0.01)。GH-Abdの関連因子として頚部屈曲角が抽出された(R2=0.26, p=0.01)。<BR>【考察】<BR>今回の結果より、頭位と胸椎後弯、腰椎前弯と骨盤傾斜に高い正相関があり、脊柱アライメント間の関連が示唆された。また、肩甲骨位置(aa’・bb’距離)と胸椎後弯指数・剣状突起高周径の正相関から、胸椎後弯と胸郭周径の増大に伴い肩甲骨が外転・上方回旋位となり、頚部屈曲角とGH-Abdの負相関から、頭部前方位がGH-Abdを低下させる傾向にあることが推察される。肩甲胸郭関節機能は胸郭上の肩甲骨位置から大きな影響を受けるため、肩甲骨前方偏位での肩関節外転運動は、肩甲上腕関節に過度の負担がかかることが予想される。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>本研究により肩甲骨位置およびGH-Abdと脊柱アライメントに関連があることが示された。SC障害とともに姿勢不良がみられる症例の理学療法評価として、既存の評価に加え、頚部屈曲角、胸椎後弯指数、剣状突起高周径、肩甲骨位置(aa’・bb’距離)、 GH-Abdの測定は、SC障害の評価・治療の一助となると考える。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), CcOF2076-CcOF2076, 2011

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205571245440
  • NII論文ID
    130005017369
  • DOI
    10.14900/cjpt.2010.0.ccof2076.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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