人工呼吸器装着患者の転帰先別に見た退院時能力・重症度の比較

DOI
  • 音地 亮
    社会医療法人財団池友会 福岡新水巻病院 リハビリテーション科
  • 江里口 杏平
    株式会社 麻生飯塚病院 リハビリテーション部
  • 山田 将弘
    学校法人 福岡保健学院 小倉リハビリテーション学院 理学療法学科

抄録

【はじめに、目的】  Williamsらの報告(2009)にあるように、集中治療室(以下ICU)での人工呼吸器装着患者に対するリハビリテーション(以下リハ)介入の重要性が近年多く述べられている。ICUという特殊環境では疾患における重症度、挿管や抑制等の影響によりリハ以外の時間は臥床傾向となりADL能力低下を来たしやすい状態といえる。そこで今回、ICU入室時評価、回復期間を転帰から検討すること、また調査項目を数値化することで自宅退院に向けてICU入室時より予後予測できるかを検討する事を目的とし、調査・解析を行った。【方法】 対象は2009年7月~2011年7月までに入院前歩行自立レベルで自宅発症し、当院ICUにて人工呼吸器を装着しリハビリ処方のあった呼吸器疾患患者26名(男性17名、女性9名、平均年齢73.7±7.9歳)とした。主病名の内約は肺炎62%、COPD急性増悪23%、急性呼吸不全15%であった。重篤な整形外科的疾患・脳神経外科的疾患を合併したもの、状態悪化により死亡したものは除外した。カルテより後方視的に年齢・人工呼吸器装着期間・退院時歩行能力・退院時Barthel index(以下B.I)・ICU在室日数・入院日数・APACHE2スコアを調査し、転帰により自宅退院した者(以下、自宅群)および転院した者(以下、転院群)の2群間で比較した。なおAPACHE2スコアに関しては、人工呼吸器装着後のデータを基に算出した。統計処理として、人工呼吸器装着期間・ICU在室日数・APACHE2スコアは2標本t検定、年齢・入院日数はWeltch検定、退院時歩行能力・B.IにはMann-Whitney-U検定を用いた。また感度・特異度検定を行い、カットオフ値を求めた。いずれの解析においても危険率5%未満を有意とし検討した。なお統計解析ソフトにはStatFlex.Ver.4.1を使用した。【倫理的配慮、説明と同意】  本研究は対象者への説明と同意に基づき理学療法を実施し、倫理的配慮に基づき個人情報データを取り扱った。【結果】  自宅群は11名(42%)、転院群は15名(58%)であった。2群間において (自宅群vs.転院群、p値)、人工呼吸器装着期間(12.4±4.7日vs.28.8±18.2日、p<0.01)、退院時歩行能力(歩行自立・歩行見守り・歩行介助・歩行不能=64%・18%・18%・0%vs.0%・13%・40%・47%、p<0.01)、退院時B.I(85.5±13vs.27.7±22.4、p<0.01)、入院日数(24.8±8.4日vs.56.3±24.1日、p<0.01)、年齢(68.9±9.4歳vs.76.5±5.4歳、p<0.05)、APACHE2スコア(25.2±3.8vs.29.5±4.5、p<0.05)で有意差を認め、ICU在室日数(14±4.7日vs.18.1±5.6日、p=0.072)で傾向が見られた。また感度・特異度検定ではAPACHE2スコアにおいてカットオフ値23点で有意に転帰が分かれた。【考察】 本研究では人工呼吸器装着患者の転帰先を2群間で比較し、その傾向を調査した。自宅退院群の特徴として、人工呼吸器装着期間・ICU在室日数が短いことで臥床期間を短縮させ、退院時の歩行能力やADL能力も高くなることが示唆された。また転院群ではより高齢でAPACHE2スコアが高く、治療に要する時間の増大により人工呼吸器装着期間が長くなる傾向にあった。その為、リハ介入時以外の活動量減少によりディコンディショニングが生じ、結果的に退院時歩行能力・ADL能力低下を来たしているのではないかと考察した。先行研究より、重症度の高い患者ほど臥床期間が遷延することを予期しなければならないと報告しているように、重症度を把握する一指標としてAPACHE2スコアのカットオフ値を算出したことで、転帰先を見据える予後予測の一助となるのではないかと考える。人工呼吸器装着患者にとって安静臥床期間の長期化は、二次的合併症を発生させる要因となるため、早期から積極的な理学療法介入を行い、歩行が自立した状態で自宅退院できるようにサポートしていくことが急性期病院における重要な課題であると考える。【理学療法学研究としての意義】  入院時のAPACHE2スコアのような重症度の指標により、以後の転帰を予測することが出来ることが示唆された。今後この結果を活かし、スムーズな退院・転院支援に努めていくことが出来ると考えられる。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2011 (0), Db1198-Db1198, 2012

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205571254656
  • NII論文ID
    130004693326
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.db1198.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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