膝蓋骨骨折後の機能回復に関する検討

  • 石川 雄太
    公立藤岡総合病院診療技術部リハビリテーション室
  • 市川 崇
    公立藤岡総合病院診療技術部リハビリテーション室
  • 岡田 みゆき
    公立藤岡総合病院附属外来センター診療技術部リハビリテーション室
  • 高橋 温子
    公立藤岡総合病院附属外来センター診療技術部リハビリテーション室

書誌事項

タイトル別名
  • 手術の有無とOTA分類での比較

説明

【目的】膝蓋骨骨折は膝伸展機能を損ない,様々な受傷機序により多様な骨折型を呈することが知られている.その治療目的は,膝関節機能の早期回復であり,膝伸展機構と膝蓋大腿関節の解剖学的整復が最終目的である.しかし,急性期から維持期にかけての縦断的な治療成績の報告は少ない.今回,機能回復に影響すると思われる具体的な指標を得るために手術の有無とOTA(Orthopaedic Trauma Association)分類による機能評価を比較したのでここに報告する.<BR>【方法】2003.4~2010.9に当院・当外来センターにて理学療法を実施した31例31骨折の膝蓋骨骨折症例を初期評価の対象,うち診察終了まで追跡可能であった18例を最終評価の対象とし,診療記録・画像所見より後方視的に調査を行なった.受傷前より,膝関節強直のあった者と理学療法実施1日の者は対象から除外した.31症例中手術群23例,保存群8例(18症例中手術群14例,保存群4例)であった.外来通院を含む理学療法実施平均期間は125.9±24.4日(4~545日),骨折時平均年齢は54.8±3.1歳(12~81歳),男性10名,女性21名(男性6名,女性12名)であった.転帰は外来通院(入院なしも含む)20例,外来通院なし4例,転院7例で,骨折分類はOTA分類45-A7例,B2例,C21例(1例不明)であった.術式はtension band wiring(以下,TBW)のみ12例,double TBW3例,TBWにK-wireの併用2例,TBWにcirclage wiringの併用2例,TBW+Quad tendon縫合1例,circlage wiringにK-wireの併用2例,cancellous screwのみ1例,骨軟骨切除1例であった.調査項目は,受傷・手術直後と癒合後の関節面の状態,初期と最終の膝屈曲ROMとQuad筋力,その獲得日数,extension lag(以下,lag)の残存を手術の有無,OTA分類別で比較検討した.解析にはSPSS Statistics 17.0を用い,Mann-WhitneyのU検定,Wilcoxonの符号付順位検定とx2独立性の検定を行なった.測定値は中央値(四分位範囲)で表し,全ての検定において有意水準はp=0.05とした.<BR>【説明と同意】対象者には本研究の趣旨および方法に関して説明を行い,同意を得た.<BR>【結果】関節面の状態は,受傷・手術直後では不整なし・軽度不整・不整=12・1・2例,癒合後では4・5・6例であった(3例はデータなし).手術の有無による膝屈曲ROMは初期で手術群45.0(25)°,保存群で80.0(55)°と有意差を認めるが(p<0.05),最終では160.0(0)°,160.0(0)°であった.Quad筋力も初期で1.5(1.0),4.0(2.0)と有意差を認めるが(p<0.05),最終では4.5(0.5),5.0(1.1)であった.lagの残存は18例中3例(A1例,C2例)において認められた.手術の有無,OTA分類ともにlagの残存において有意な関連は認められなかった.OTA分類別では,初期膝屈曲ROM,full ROM獲得日数で有意差はなかった.最終膝屈曲ROMは18例中17例でfull ROMを獲得できた.最終の膝屈曲ROM獲得は81.5(62)日で,Quad筋力獲得134.5(118)日と比べ有意に早かった(p<0.05).<BR>【考察】何らかの関節面の不整は,受傷・手術直後では15例中3例のみであったが,癒合後では15例中10例と増加しており,癒合後の関節面の状態は決して良好なものとは言えない.手術の有無による初期膝屈曲ROMとQuad筋力では有意差が生じたが,最終的に獲得する膝屈曲ROMとQuad筋力に差はなく,18例中17例においてfull ROMが獲得できたことから機能面での予後は比較的良好であるといえる.しかし,多くの症例でlagが出現し,18例中3例はlagが残存した.lag は受傷後や術後の関節水腫や腫脹により物理的,神経生理学的にQuadの活動が反射性に抑制されたためであると考える.受傷・手術直後より関節面が不整であった2例はともにlagが残存していた.また,残存した3例では伸展機構を破綻させるtype A・Cの下極,転位の大きい粉砕骨折であったことから,関節水腫や腫脹に加え,受傷・手術直後より関節面が不整で,伸展機構を破綻させる骨折ではlagの改善に難渋する可能性が示唆された.全体として,最終Quad筋力獲得より膝屈曲ROM獲得の方が早かったのは,筋力は受傷後の不動や反射性抑制により筋萎縮が生じ,その改善に時間を要するためであると考える.今後更に症例数を増やして,今回示唆された傾向を検討していくことが必要である.<BR>【理学療法学研究としての意義】手術治療では初期において,保存治療に比べて膝屈曲ROMとQuad筋力は有意な低下を認めるが,最終的には両治療とも良好である点.しかし,Quad筋力は回復に時間を要するという点.機能回復に影響すると思われる具体的な指標として,受傷・手術直後より関節面が不整で,伸展機構を破綻させる骨折ではlagの改善に難渋することが示唆された点.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), CdPF1036-CdPF1036, 2011

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205571269504
  • NII論文ID
    130005017389
  • DOI
    10.14900/cjpt.2010.0.cdpf1036.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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