簡易下肢・体幹機能測定器の開発

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タイトル別名
  • カンイ カシ タイカン キノウ ソクテイキ ノ カイハツ
  • 再現性と妥当性の検討

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抄録

【目的】高齢者の下肢機能を簡便かつ定量的に評価する方法として,市販体重計を用いた下肢荷重力測定の有用性が明らかにされている。村田ら(2006)は,高齢者の下肢荷重力測定値が体重の50%を超えるか否かで,歩行の可否を予測する基準になりうることを報告している。また,下肢荷重力に関与する身体機能について,下肢筋力や座位保持能力との関連を示し,なかでも座位保持能力との関係が強かったことを述べている。さらに,内山(1998)は座位保持能力には体幹機能が強く影響することを示している。すなわち,体幹機能が下肢荷重力測定時の下肢応力の発生に重要な役割を果たしている可能性が示唆される。このような背景から我々は,下肢荷重力測定の簡便さと有用性に加え,体幹機能を反映する測定器を新たに考案した。そこで本研究では,考案した簡易下肢・体幹機能測定器から得られる測定値の再現性と妥当性を分析することで,本測定器の有用性について検討した。<BR>【方法】対象は,女性高齢者23名(平均年齢:83.8±8.5歳,平均体重:44.0±8.6kg)とした。今回考案した測定器は,従来の下肢荷重力に加え,測定時に支持面となる臀部の荷重力をひずみゲージを用いることによって最小0.1kgから計測できる装置である。測定は,両側の下肢および臀部を測定器に乗せた端座位で,両上肢を体幹前方で組ませ,下肢および臀部をそれぞれ最大努力下で垂直方向に押すよう指示した。その際,下肢や臀部が測定器から浮かないように留意した。測定は,それぞれ左右2回ずつ行い,その最大値を合計して下肢荷重力(kg)および臀部荷重力(kg)とした。座位保持能力の測定は,田中ら(2001)が報告しているハンドヘルドダイナモメーター(HHD)を用いた方法で測定した。測定は,端座位にて被検者の上腕部に側方からHHDを押し当て,座位姿勢を保つことができる限界までゆっくりと押した。測定は左右2回ずつ行い,左右の最大値を合計して座位保持能力(kg)とした。歩行速度は,平地5m最速歩行時の所要時間をストップウォッチで計測した。測定は2回連続して行い,最速値(m/sec)を代表値とした。下肢筋力は,HHDを用いて膝関節伸展筋力を左右2回ずつ測定し,その最大値を合計して下肢筋力(kg)とした。なお,下肢荷重力および臀部荷重力,座位保持能力,下肢筋力の測定値は体重比百分率(%)に換算した。統計処理は,下肢荷重力および臀部荷重力の検者内再現性について級内相関係数(ICC)を用いて分析した。また,下肢荷重力および臀部荷重力と座位保持能力,歩行能力,下肢筋力との関連についてピアソンの相関係数を求めて検討した。なお,有意水準は5%未満とした。<BR>【説明と同意】被験者には研究の目的と方法について十分に説明し,同意を得た上で研究を開始した。<BR>【結果】下肢荷重力および臀部荷重力測定値の再現性について,ICCは右下肢0.94,左下肢0.98,右臀部0.96、左臀部0.96であった。下肢荷重力は,座位保持能力(r=0.62,p<0.01),歩行速度(r=0.67,p<0.01)および下肢筋力(r=0.54,p<0.01)との間に有意な正相関が認められた。臀部荷重力は,座位保持能力(r=0.61,p<0.01),歩行速度(r=0.60,p<0.01)および下肢筋力(r=0.73,p<0.01)との間に有意な正相関が認められた。また,下肢荷重力と臀部荷重力との間に有意な正相関(r=0.74,p<0.01)が認められた。<BR>【考察】本測定器より得られた測定値は,ICCによる再現性の解釈に基づくと「優秀」であった。このことから,本測定器から得られる測定値は,臨床場面で十分に使用できる再現性を有していることが確認された。本研究における下肢荷重力は,下肢筋力や座位保持能力,歩行速度と有意な相関が認められた。従来の報告によると,下肢荷重力は下肢筋力のみならず,座位保持能力や歩行能力との関連が示されている。本研究結果は,これら先行研究と矛盾しない結果であった。さらに,臀部荷重力は各測定値との間に有意な相関が認められ,なかでも下肢荷重力との間には強い相関関係が示された。すなわち,下肢荷重力測定時の下肢応力の発生には,下肢機能のみならず体幹機能が重要な役割を果たすことが示唆された。これらのことより,本測定器は下肢機能の評価に加え,体幹機能を含めた総合的な身体機能評価としての活用が期待できる。<BR>【理学療法学研究としての意義】本測定器は,下肢ならびに体幹機能を総合的かつ定量的に評価できる簡易機能評価法として,高齢者の身体機能を予測できる可能性が示された。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), AbPI2030-AbPI2030, 2011

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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