リズム刺激が運動反応速度およびTUGに及ぼす影響
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【目的】一般に自動性の強い運動には,それぞれ特有のリズムないし出力パターンがあり,多数の運動細胞集団が,時間的・集団的に定型的なパターンで活動するとされており,これらは歩行や,呼吸・咀嚼などが有名である.特に歩行では脊髄に歩行パターン発生器と呼ばれる神経回路網が存在し,屈筋と伸筋がタイミングよく興奮と抑制を繰り返すことで自動的に歩行が行えるとされている.また,その神経回路網のリズム調整をしたりする部位が脳幹に存在し,そこを電気刺激すると歩行が誘発されたり,歩行リズムを変調させることも出来る事が知られており,この部位は歩行誘発中枢と呼ばれている.実際に我々の病院においては治療場面において,治療手技の一つとして歌を用いる事も多く,介入後の歩行においてその円滑さや歩行スピードが増す症例を経験している.これは音楽の中にあるリズムが生体の運動パターン発生器を賦活した事で,歩行時の下肢筋の協調性を高めたのではないかと推測した.そこで,今回リズムや音楽を通して運動反応速度及び歩行速度及び安定性(Time and Up Go test:TUG)に及ぼす影響について着目して研究を行った.<BR>【方法】対象は,聴覚に問題がなく整形外科的に問題のない健常成人12人(男性4名女性8名)年齢平均27.9歳±4.1歳)とし,期間は,2週間で全6回実施した.曲は2拍子のリズムである「ウサギとカメ」を選択し,原曲を聞く群A群6人と,リズムを崩し作成した曲を聞く群B群6人とにランダム分け実施した.評価は,それぞれの曲を聞いた後,運動反応速度の変化として,アイタッチ(株式会社三協社製)とTime and Up Go test(以下TUG)を行った.アイタッチとは,前方にある1m四方に6×6個に配列された36個のタッチパネルがランダムに点灯し,もぐら叩きの要領でスコアによって光刺激に対する反応速度を測定するものであり,第46回日本リハビリテーション医学会学術集会において報告されている.また,TUGでは,転倒との相関関係が高いとさているため,リズム刺激が転倒に与える影響も考え評価した.アイタッチでは刺激前後のスコアの変化数を指標とし,TUGでは,刺激前後での測定時間の差を比較した.結果はノンパラメトリック検定のマンホイットニーのU検定にて検定を行った.<BR>【説明と同意】被検者には研究の目的・内容を説明し,同意を得て実施した.<BR>【結果】原曲を聞いた群A群では,アイタッチの平均得点で約4.6ポイントの上昇をみとめ,TUGでは平均で約0.2秒の減少を認めた.また,リズムを崩して作成した曲を聴く群B群では,アイタッチの平均得点で約3.0ポイントの減少をみとめ,TUGでは平均で約0.2秒の増加をみとめた.A群およびB群間でマンホイットニーのU検定を行った結果両者ともP<0.01となり有意な差をみとめた.<BR>【考察】パターン発生器はその運動に関連する脳内の領域にそれぞれ連絡しており,その賦活があることで,協調的な運動が出来るようになるとされている.今回の研究の結果においては,リズムのいい曲を聞くことで光刺激に対する反応速度が良くなるという結果が得られた.アイタッチには目と手の協調性,高次脳機能(半側空間霧視・注意機能など),上肢機能などがスコアに影響されるとされており,リズムのいい曲によりパターン発生器が賦活された事により,目と手の協調性,注意機能が賦活され,スコアが上昇したと考えられる.次にTUGでは,今回2拍子のリズムを使用したが,2拍子のリズムは,行進曲に代表されるように,歩行リズムと符合する.このリズムが,聴覚から入力されることで中脳の歩行誘発中枢を賦活化させ歩行パターン発生器に作用したのではないかと考えた. <BR> 【理学療法研究としての意義】機能障害により,身体の運動が円滑に行えない患者は,その身体リズムも崩れている事が多いと考えられる.その為,動作観察において歩行リズムの崩れている患者はパターン発生器に崩れたリズムが入力される事で,協調的な運動が阻害され,その運動が崩れたリズムとしてパターン発生器に入力されるという悪循環を生み出している事も容易に予測される.従って,ただ単純に理学療法を黙々と施行しているよりも,その患者にあったリズムを治療に取り入れる事で,脳を全体的に活性化させ,リズム覚醒や情動系に働きかけることが可能となり,パターン発生器を賦活させる事で,より効果的な理学療法が期待できるのではないかと考える.特にTUGと転倒リスクの相関関係は数多くの報告が知られている.よって,本研究により時間の短縮がみられた事から,理学療法実施中に歌や楽器の演奏などを行うことによって,パターン発生器の覚醒を促すことで転倒のリスクの減少に繋がると考えられる.今後の課題として各ADLに適したリズムの解明など更なる検討を要する.<BR>
Journal
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- Congress of the Japanese Physical Therapy Association
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Congress of the Japanese Physical Therapy Association 2010 (0), AbPI2020-AbPI2020, 2011
Japanese Physical Therapy Association(Renamed Japanese Society of Physical Therapy)
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Keywords
Details 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205571292800
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- NII Article ID
- 130005016560
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- Text Lang
- ja
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- Data Source
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- JaLC
- CiNii Articles
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- Abstract License Flag
- Disallowed