行動変容技法を用いたメタボリックシンドローム発症予防介入研究

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抄録

【目的】メタボリックシンドローム (以下,Met S) 予備軍の生活習慣改善を目的として,知識の提供と共に行動変容技法の1つである問題解決療法を用いた目標行動の設定を導入した12週間の介入研究 (以下,発症予防研究) 及び発症予防研究終了1年後よりフォローアップ研究 (以下,FU研究) を実施した.生活習慣の変化やそれに伴う,血中脂質,Body Mass Index (以下,BMI) への影響や発症予防効果,及びFU研究では,介入効果の継続について検討した.<BR>【方法】発症予防研究対象者は,A大学に勤務する腹囲,BMI,血中脂質のいずれかに問題のある30歳以上の教職員とした.参加者20名をA群 (男性9 名,女性2名,平均年齢50.3±8.1歳) とB群 (男性8名,女性1名,平均年齢58.4±12.0歳) の2群に分けた.方法は,はじめに両群ともにMet S予防の知識提供を目的とした小冊子を配布した.次いで,1-12週は,A群,13-24週はB群に同じ介入を12週間ずつ実施した.介入内容は,4週間毎に問題解決療法を用いた,生活習慣改善に関する目標行動を設定させた.問題解決療法のプロセスは「問題提起」,「問題の明確化,定式化」,「代替可能な解決策の産出」,「意思決定」,「実施と検証」の5つの過程から成り,目標行動の決定は,解決策より最も自己効力感の高い解決策を選択させた.自己記録表に目標の達成度,体重,歩数,腹囲などを記入し,毎週提出させ,フィードバックコメントを付加して返却した.その他,4週間毎に疾患や行動変容技法に関する知識提供を含む通信紙の発行と個別の質問への対応を行った.これらの介入はすべて紙媒体を用いた.<BR>FU研究は,発症予防研究終了1年後より12週間実施した.FU研究の対象者は,発症予防研究参加者のうち,参加を希望した16名 (男性13名,女性3名,平均年齢54.1±11.2歳) である.介入内容は,発症予防研究と同様に目標行動の設定と自己記録表の記入及び返却を行った.自己記録表は1-8週目までは毎週,9-12週目は2週間毎に提出させた.個別の質問には随時対応した.これらの介入は,すべて電子メールや添付メールを媒体として実施した.<BR>両研究における測定は,発症予防研究0,12,24週とFU研究0,12週の5回実施した.測定項目は,生活習慣調査,血液検査,身長,体重よりBMIを算出した.また,両研究終了後,プロセス評価を実施した.統計処理は,各群の測定結果についてFriedman検定を用いて変化を比較した. <BR>【説明と同意】参加者には本研究の目的と内容を説明し,同意書への署名を得た者を研究対象者とした.また,本研究は目白大学倫理審査委員会の承認を得た上で実施した.<BR>【結果】発症予防研究は,生活習慣では,A群において,歩行時間 (分/日) は,0週に比べ24週のほうが増加した (p<.05).食事は,「週3日以上,満腹まで食べる」が0週に比べて12週のほうが減少した (p<.05).また,「週3日以上,夕食後の夜食を食べる」は,0週に比べて24週のほうが減少した (p<.05).間食日数 (日/週) は 0,12週に比べて24週において減少した (p<.05).血液検査は,A群における総コレステロール (mg/dl) は,0週に比べて12 週 (p<.05),24 週 (p<.01) のほうがともに低下した.HDLコレステロール (mg/dl) は,0週に比べて12週 のほうが高値となった (p<.05).BMI (m/kg2) は,A群は,0週に比べて12週 (p<.01),24週 (p<.01) のほうがともに低下した.B群は,0週,12週に比べて24週において低下した (p<.05).FU研究は,生活習慣,血液検査,BMIともに0,12週における有意な差はなかった.両研究におけるプロセス評価の結果は概ね良好であり,約7割が「プログラム参加前と比べて生活習慣改善に関する問題対処能力が上がったと思うか」という質問に「かなり思う」と回答した.<BR>【考察】発症予防研究では,介入後,血中脂質やBMIが改善していた.問題解決療法を用いて,自己効力感の高い目標行動とすることで,生活習慣改善のための行動が容易となり,行動を実行することでさらに自己効力感の向上や血中脂質,BMIの改善効果へつながったと考えられる. プロセス評価においても自覚的な問題への対処能力の向上がみられた.FU研究では,前研究における介入効果が継続されていた. <BR>【理学療法学研究としての意義】自覚症状が乏しく,運動などの動機づけの持ちにくいMet Sや糖尿病の発症予防や効果的な指導方法の検討は,今後,患者数の増加に伴いさらに重要となると考えられる. <BR><BR>

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), EbPI1448-EbPI1448, 2011

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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