ウェアラブル加速度・角速度センサによる最大10m歩行の評価と快適10m歩行の差分の評価

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抄録

【目的】<BR>運動療法の有効性を検討するために理学療法士は患者の歩行評価を日常的に行っている.動作分析による評価として簡便で効率のよい計測器としてストップウォッチを用いた10m最大歩行時間計測(以下最大歩行とする)や10m快適歩行時間計測(以下快適歩行とする)が一般的である.最大歩行と快適歩行の差分には歩行の予備力が含まれていると考えられるが、10m歩行時間は歩行速度という大まかな歩行評価であり,最大歩行と快適歩行の差分に関する詳細な評価はセラピストの観察に委ねられることが多い.また歩行の観察はPTの経験によって基準が異なる可能性があり,評価の再現性・情報の共有が困難である.そこで、本研究では3軸加速度センサと3つの角速度センサを内蔵したウェアラブルセンサを用いて健常成人と虚弱高齢者を対象に最大歩行と快適歩行評価を行ったので報告する。<BR>【方法】<BR>測定にはウェアラブルセンサ,同期信号発生装置,およびPC を用いた.ウェアラブルセンサの仕様は、寸法:55×50×20mm、重量:60 g、持続稼動時間:13時間、無線方式:Bluetooth class1、加速度感度:±2g(腰背部)・±4g(両大腿部)、角速度感度:±400deg/s(腰背部、両大腿部)サンプリング周波数:100Hzである。計測データはセンサに搭載されたマイコンによりAD 変換された後,Bluetoothを用いてPC へ送信し保存した.また実験では3 台のセンサを用いたためセンサ間の同期を確保するために同期信号発生装置を用いて実験開始前に同一の同期信号を入力し,計測開始の基準とした.本研究では,3個のワイヤレスモーションセンサを用い,被験者の骨盤の左右の腸骨稜を結んだジャコビー線直上の第3腰椎の位置と左右大腿部の大腿骨大転子と腓骨頭を結ぶ直線上で膝蓋骨上縁10cmの位置に装着して計測を行った.<BR>計測対象の最大歩行・快適歩行は被験者に10mの測定区間の前後に3mの加速路、減速路をとった合計16mの平坦な進行路を歩かせ、ウェアラブルセンサ・ストップウォッチにて測定区間を経過する時間を測定した。口頭指示は快適歩行では「いつもどおりに歩いてください」、最大歩行では「できるだけ早くあるいてください」と統一し計測した。<BR>計測対象者は健常成人9名(23±1歳)と介護予防事業に参加した男女介護要支援14名とした。要支援者の対象者の採用基準は、自宅で生活し要支援1の認定者である。日常生活活動で精神面に問題のあるものは除外とした。参加者の年齢は69±9歳であり、主な疾患は脳血管、変形性関節症であった。<BR>歩行時間とウェアラブルセンサから得られたデータから、従来用評価方法として用いられているRMS値(加速度・角速度・角度)・歩行周期・自己相関係数Ad1:反対側との再現性 Ad2:同側の再現性を表出した。<BR><BR>【説明と同意】<BR>倫理的配慮として、対象者には研究内容と方法について口頭および書面にて十分に説明を行い、書面にて同意を得た。なお、本研究は当院倫理委員会の承認を経て実施した。<BR>【結果】<BR>快適歩行と最大歩行の値に関して対応のあるT検定を行った。健常成人は最大歩行・快適歩行の全ての項目において有意差が得られた(p<0.01)。要支援者では腰部のRMS(加速度・角速度・角度)と歩行周期に有意差が得られた(p<0.05)。要支援者の詳細な結果を以下に示す。<BR>快適歩行10.8±2.5sec、加速度RMS前後0.15±0.04g、左右0.15±0.04g、上下0.23±0.09g、角速度RMS前後14.6±4.1、左右42.4±31.2、上下26.6±7.4、角度RMS前後1±0.3、左右1.7±0.7、上下1.9±0.6、歩行周期1±0.2sec。最大歩行9.0±2.4sec、加速度RMS前後0.19±0.06g、左右0.2±0.06g、上下0.31±0.12g、角速度RMS前後20.6±5.4、左右53.1±33.2、上下34.2±10.6、角度RMS前後1.7±0.6、左右2±0.7、上下2.7±0.9、歩行周期0.98±0.2sec。<BR><BR>【考察】<BR>最大歩行と快適歩行の差分が歩行に関する予備力であると仮定し、ウェアラブルセンサによる健常成人と虚弱高齢者の歩行評価を行った。今回の結果からは最大歩行と快適歩行において有意差が得られ、対象者の歩行に関する予備力の高さを確認することができた。<BR>今後は要支援2認定者や要介護認定者の最大歩行・快適歩行を計測し、それぞれの特徴を見出すことで、歩行予備力による転倒予測の検討や歩行自立度判定につながると考えられる。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>これまで観察で捕らえていた歩容の特徴をデータとして定量的に把握することができ,転倒予測・歩行自立度判定において有用であると考えられる。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), EbPI2399-EbPI2399, 2011

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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