円背姿勢を呈した高齢者の椅子上安楽座位での臀部ずれ力とその特徴

  • 小原 謙一
    川崎医療福祉大学医療技術学部リハビリテーション学科 広島大学大学院保健学研究科博士課程後期
  • 新小田 幸一
    広島大学大学院保健学研究科心身機能生活制御科学講座
  • 渡邉 進
    川崎医療福祉大学医療技術学部リハビリテーション学科
  • 江口 淳子
    福岡リハビリテーション専門学校理学療法学科
  • 藤田 大介
    川崎医療福祉大学医療技術学部リハビリテーション学科
  • 西本 哲也
    川崎医療福祉大学医療技術学部リハビリテーション学科

説明

【目的】高齢者人口の増加により,脊柱後彎変形,いわゆる円背姿勢を呈した高齢者を目にする機会が多くなってきた.円背姿勢を呈した高齢者(以下,高齢者)は,身体に適合していない椅子や車いすの使用により,更なる生活機能の低下やQOLの低下,そして褥瘡の発生を引き起こしていることも少なくない.しかしながら,円背姿勢が褥瘡発生要因の一つとして注目されている臀部ずれ力に及ぼす影響やその特徴についての報告は,我々が渉猟する限りにおいては見当たらない.そこで本研究では,高齢者を対象として,臀部ずれ力を,我々の考案した推定モデルによる値(推定値)と床反力計を用いた実際の椅子上安楽座位の計測から得られた値(実測値)を比較・検討することにより,これらの高齢者の椅子上安楽座位での臀部ずれ力の特徴を明らかにすることを目的として行った.【方法】対象者は,某老人保健施設に入所中の,椅子座位保持に監視を必要としない高齢者10名(男性2名,女性8名,年齢:85.2±4.3歳,身長:150.7±10.6cm,体重:47.7±10.1kg)であった.円背の程度は,Milneら(1974)の方法をもとにした座位での円背指数計測法(寺垣ら,2004)を用いて判定した.対象者の円背指数の平均は,21.2±3.5であり,そのうち中等度円背者が5名(円背指数:16.2~20.7),重度円背者が5名(円背指数:21.2~28.1)であった. <BR>臀部ずれ力の測定には,40cm×40cmの床反力計(共和電業社製座位解析システムK07-1712)を使用し,周波数100 Hzでデータサンプリングを行った.椅子(背もたれ高:42cm,座面奥行き:40cm,背もたれ角度:後傾10度,座面角度:0度)上に床反力計を置き,その上で背もたれにもたれた安楽座位を測定肢位とした.測定肢位保持時間中の姿勢の崩れによる影響を考慮し,測定開始は,測定肢位を取った10秒後に統一した.測定時間は3秒間とし,解析には測定された301サンプルを平均した値を採用した.また,安楽座位での臀部ずれ力の推定のために,測定肢位での頭・頚・体幹の合成質量中心(Resultant Center of Mass: RCOM)座標を基に,RCOM-坐骨線と床面との角度(α)と,背もたれ接点からRCOM-坐骨線への垂線との交点とRCOM間の直線距離(L1),およびRCOM位置と坐骨間の直線距離(L2)を測定した.さらに,背部と背もたれとの接点-坐骨線と水平面との角度(β)を測定した.これらの値を臀部ずれ力推定実験モデルに代入し,推定値を得た.<BR>床反力計による実測値と実験モデルによる推定値の関係はpaired t-testとPearsonの相関係数を用いて統計学的に解析し,危険率5%未満をもって有意とした.なお,形態学的な影響を考慮し,測定および推定した臀部ずれ力は各対象者の体重で除した値[N/kg]を採用した.【説明と同意】本研究は,演者の所属施設の倫理委員会の承認を得た後に実施した(承認番号:107).各対象者には事前に本研究の趣旨と目的を文書にて説明した上で協力を求め,同意書に署名・捺印を得た.【結果】床反力を用いて測定した臀部ずれ力実測値は,0.82±0.14[N/kg]であり,実験モデルにて推定した臀部ずれ力推定値は,0.57±0.1[N/kg]であった.これらの間には有意な差が認められ(p<0.01),相関係数は,r = 0.786(p<0.01)と,有意な強い正の相関を示した.直線回帰式はy = 1.097x + 0.196(x:推定値,y:実測値)であった.また,α=68.8±3.1度,β=52.7±1.3度,L1=5.9±2.7cm,L2=31.6±3.7cmであり,L1/L2比は0.19±0.09であった.【考察】実測値と推定値の間に有意差が認められたことは,本研究で用いた臀部ずれ力推定実験モデルが下肢の影響を考慮されていないためと考えるが,両者間に有意な強い正の相関が得られたことから,直線回帰式に実験モデルで算出された推定値を代入することで,下肢の影響が考慮された臀部ずれ力推定値を得ることが可能になると考える.また,この正の相関が得られたことから,若年成人を対象とした先行研究から得られた「RCOMと背もたれ接点,および坐骨結節の3つの位置関係を考慮することによって,臀部ずれ力を軽減させ得る」という方略が,高齢者においても適応可能なことが示唆された.さらにこれらのことから,高齢者の座位姿勢を上述の3つの位置関係に着目してみると,高齢者と若年成人で同様の位置に臀部があれば,脊柱の円背によって高齢者のRCOMは若年成人よりも前下方に位置し(αの増大),それに伴ってL1/L2比が高値を示すため,骨盤が後傾していても高齢者の臀部ずれ力は若年成人よりも低値を示すという特徴があることが示唆された.【理学療法学研究としての意義】実験モデルによって椅子上安楽座位時の臀部ずれ力を推定でき,また,臀部ずれ力を軽減させる方略が高齢者にも適応可能なことが示されたため,本研究の結果は椅子座位での褥瘡発生予防の基礎的資料となるという点で意義がある.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), E4P1205-E4P1205, 2010

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205571361920
  • NII論文ID
    130004582819
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.e4p1205.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ