股関節内転運動時における大殿筋の筋活動

DOI
  • 鈴木 博人
    東北文化学園大学医療福祉学部リハビリテーション学科 東北文化学園大学大学院健康社会システム研究科
  • 吉木 大海
    東北文化学園大学医療福祉学部リハビリテーション学科
  • 山口 恵未
    東北文化学園大学医療福祉学部リハビリテーション学科
  • 渡邊 彩
    東北文化学園大学医療福祉学部リハビリテーション学科
  • 和田 唯
    東北文化学園大学医療福祉学部リハビリテーション学科
  • 藤澤 宏幸
    東北文化学園大学大学院健康社会システム研究科

抄録

【はじめに、目的】股関節伸展・外旋運動の主動筋として知られる大殿筋は、解剖学的・運動学的違いにより上部線維(股関節中心より上1/3)・下部線維(股関節中心より上2/3)に分けられ、上部線維は股関節外転運動時に、下部線維は股関節内転運動時に機能すると報告されている(kapandji1991)。また、筋の走行とモーメントアームの関係をストレートモデルによって検討した研究において、大殿筋の走行は股関節中心の下方にあることから股関節内転作用を有すると推定されている(Dostal1986)。先行研究において、股関節外転運動時における上部線維の活動を支持する報告は散見されるが、股関節内転運動時における下部線維の筋活動に関する研究は不足している。そこで、本研究の目的は股関節内転運動時における大殿筋の筋活動を明らかにすることとした。【方法】対象は健常青年男性25 名(年齢:21.5 ± 1.3 [歳]、身長:172.6 ± 5.1 [cm]、体重:64.6 ± 3.9 [kg])とした。測定項目は筋力および筋活動量とした。筋力については徒手筋力計にて測定した。筋活動量については表面電極を用い、双極誘導にて導出した。被検筋は右側の大殿筋(上部線維・下部線維)2 か所とし、上後腸骨棘から2 横指下と大転子を結んだ線の上方を上部線維、下方を下部線維とした。また、筋の位置をパーソナル・デジタル超音波計にて確認し、電極貼付位置を決定した。電極貼付後、股関節内転運動時における等尺性最大筋力を徒手筋力計にて測定した。次に、検者の徒手抵抗により股関節伸展運動を行なわせ、最大随意収縮(MVC)時の筋活動も導出した。測定条件は筋力発揮率について股関節最大内転筋力の20%、40%、60%、80%の4 種類とした。各条件にて股関節内転運動時の等尺性収縮を3 秒間行わせた。筋電波形のサンプリング周波数は1kHzとした。筋電図の解析には、中間の2 秒間を用いた。得られた筋電波形をフィルタ処理した後、積分値を算出した。筋活動量はMVC時の積分値を100%として基準化した(%MVC)。統計解析には、従属変数を筋活動量とした筋力発揮率(4 水準)の1 要因による一元配置分散分析(被験者内計画)を用いた。また、Tukeyの方法により多重比較検定を行った。統計学的有意水準は危険率5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】実験の目的と方法を対象者へ詳細に説明し、十分な理解のもと、同意書への署名にて承諾を得た。また、本研究は、東北文化学園大学研究倫理審査委員会にて承認を受け実施した(承認番号;文大倫第12 −9 号)。【結果】分散分析の結果、下部線維の筋活動量における筋力発揮率の効果は有意でなかった。筋力発揮率20、40、60、80 [%]に対して、%MVCは各々7.3 ± 5.0、6.3 ± 5.5、8.2 ± 6.3、8.6 ± 7.1 [%]であった。一方、上部線維には有意な効果が認められ、多重比較の結果、最大筋力の40%と80%の間にのみ有意な差がみられた。筋力発揮率に対して、%MVCは各々6.9 ± 4.6、5.9 ± 4.4、7.7 ± 5.2、8.6 ± 7.1 [%]を示した。【考察】本研究の結果より、股関節内転運動時における下部線維の筋活動量は筋力発揮率にかかわらず低値を示すことが明らかとなった。この結果はストレートモデルにより推定された結果と異なっている。これは、ストレートモデルでは軟部組織や筋腹を表現できず、人体における正確な筋の走行・機能を表現することが難しいためであると推察する。また、下部線維の浅層は腸脛靭帯の下部に停止するという解剖学的構造により、股関節外転運動時に活動する可能性があり、この点は今後の検討課題である。また、大殿筋上部線維においては、筋力発揮率の40%と80%の間にのみ有意差が確認された。しかし、下部線維と同様に低い筋活動量を示している。また、大殿筋上部線維が股関節内転運動に活動するという報告はなく、伸展運動・外転運動への関与を支持する報告が多い。したがって、これは股関節内転運動時における股関節周囲筋の同時収縮によるものと考えられた。【理学療法学研究としての意義】大殿筋に関する研究において、股関節伸展運動時・外転運動時における筋活動を主題として取り上げたものが多く、股関節内転運動時の筋活動を検証した研究は少ない。本研究の結果はストレートモデルによって推定された結果と異なっていた。大殿筋は歩行や立ち上がり動作などの日常生活動作へ強く関与する筋であり、理学療法場面において治療対象となる頻度が高い。したがって、本研究の結果は、大殿筋に対する治療・評価を行う際の基礎データの一つであると捉えている。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48100951-48100951, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205571397632
  • NII論文ID
    130004585328
  • DOI
    10.14900/cjpt.2012.0.48100951.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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