介護保険事業所利用者へのポールウォーキングの応用

書誌事項

タイトル別名
  • 介入による姿勢および歩容の変化

説明

【目的】<BR> 現在,デイサービスでは維持期にある要支援・要介護高齢者の利用が最も多く,運動機能レベルが比較的低い高齢者が大半を占めている現状にある。その一方で,理学療法士等の機能訓練に携わる専門職が関与する機会が少なく,デイサービスは,有効なリハビリテーションが十分に実施されていない状況にある。<BR> 今回,我々は,デイサービスにおいて,安全で簡便な運動であり,かつ介護職の仕事量が増えない現実的な運動様式が有用と考え,その運動様式としてポールウォーキングを提案した。ポールウォーキングとは,スキーのストック様のポールを両手で持ち身体の前方に着いて歩行する様式である。太田らは健常な中高齢者に対してポールウォーキングの介入効果を検討し,歩行速度の上昇,歩幅の増大などを報告している。しかし,ポールウォーキングを用いた虚弱高齢者に対する介入研究はいまだ行われていない。そこで,デイサービス利用者を対象にポールウォーキングを用いた運動介入を行い,姿勢,歩行能力に着目し,その効果を検証することを目的とした。<BR>【方法】<BR> 研究対象は,豊橋市内にあるデイサービス利用者とした。取り込み条件として,65歳以上であること,自立歩行,もしくは,監視下歩行が可能なこと,週1回以上デイサービスを利用し,歩行訓練を行っていること,両手ともポールを持てること,デイサービス利用時に認知機能障害により介助を有しないこと,主治医より運動に関する制限をされていないこととし,対象施設のデイサービスに通う利用者26名を介入対象とした。対象者26名は,第3者により介入群とコントロール群に無作為に割り付け,初期評価後,デイサービス利用時に実施していた歩行訓練を週2回,1回10分を基準としたポールウォーキングによる歩行訓練に変更し,12週間の運動介入を実施した。今回,最終評価実施者が21名(5名脱落)となり,さらにそのうちデータ解析が可能であった13名(介入群8名;平均年齢79.9±5.3歳,コントロール群5名;平均年齢81.4±4.4歳)を本研究における解析対象とした。<BR> 評価方法は,三次元動作解析装置KinemaTracer(キッセイコムテック株式会社製)を使用し,被験者の体節位置座標を計測した。歩行解析では,臨床歩行分析研究会が推奨するマーカーセットを適用し,下肢関節角度を算出した。また姿勢解析では,Yi-Liangらによる評価方法を参考とし,それらより上部頸椎,下部頸椎,胸椎,腰椎の角度を算出した。評価項目は(1)5秒間の静止立位,(2)5m歩行とし,介入前後で比較検討を行った。統計解析は,多重比較検定を行った。有意水準は5%未満とした。<BR>【説明と同意】<BR> 本研究は,豊橋創造大学生命倫理委員会,ならびに,名古屋大学医学部生命倫理委員会の審査・承認を得て実施された。なお,研究の実施に際し,複数施設を対象に協力施設ならびに被験者を募り,施設ならびに対象者に研究内容を十分に説明し,同意を得て実施した。<BR>【結果】<BR> 歩幅,歩行速度,歩行中の股関節,膝関節,足関節における各関節角度,また立位姿勢における各関節角度において介入群とコントロール群の間に有意差は認められなかった。また,12週間中に実施した歩行訓練の総実施時間は,介入群145.6±72.1分,コントロール群202±90.9分であり,有意差は認められなかった。<BR>【考察】<BR> 今回,介入前後で有意差が認められなかった理由として,次の2点が考えられた。1点目は,介入期間中において対象者間で運動量に著明にばらつきが見られたこと,2点目は,今回の対象者はデイサービス利用者であり,虚弱な高齢者が多く,実施した運動量が不十分であったこと,である。高齢者に対する健康づくりにおける運動処方の指標として,健康日本21により,1回15分以上とされているが,本研究における運動処方量は,対象者本人,および,歩行訓練に関わる介助者に対し時間的・身体的に負担のかからない程度と条件付きで設定した経緯から運動量が少なくなり,さらに,ばらつきが生じたと考えた。一方,今回のポールウォーキングを用いた運動介入では,我々が期待した改善効果は得られなかったが,デイサービス利用者にとって,運動機能を維持すること自体が重要なことであり,12週経過後,運動機能や歩容がおおむね維持できていたことは,ポールウォーキングによる運動効果を否定するには至らなかった。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> デイサービス利用者などの虚弱高齢者にとって、ポールウォーキングのような安全で簡便、かつ介護職の仕事量が増えない運動様式の運動効果が検証されることにより、維持期リハビリテーションの質的向上に結びつくと考えられる。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), EbPI1406-EbPI1406, 2011

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205571412736
  • NII論文ID
    130005017620
  • DOI
    10.14900/cjpt.2010.0.ebpi1406.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ