スパイロメータを利用したSniff Nasal Inspiratory Pressure(SNIP)測定
書誌事項
- タイトル別名
-
- 健常成人と筋萎縮性側索硬化症患者による検証
この論文をさがす
説明
【目的】<BR> 横隔膜などの吸気筋筋力の低下に伴い呼吸不全に至る筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic Laterals Sclerosis:ALS)患者において、吸気筋筋力の評価は極めて重要である。近年では、鼻腔吸気圧(Sniff Nasal Inspiratory Pressure:SNIP)を用いた吸気筋筋力の評価方法の有用性が報告されており、症状が進行した場合でも、努力性肺活量(Force Vital Capacity)などの呼吸機能検査よりも簡便で信頼性のある評価方法として認められている。ALSの呼吸ケアに関するガイドライン(Miller RG et al,2009)でも、非侵襲的陽圧換気療法(Noninvasive Positive Pressure Ventilation:NPPV)の導入基準のひとつとして、「SNIPが40cmH2Oを下回った時点」と提唱されており、当院でも、SNIPを定期的に評価し、呼吸機能の経時変化の把握やNPPV導入の判断基準のひとつとしている。しかし、SNIPの測定機器は機種が極めて限定されており、かつ海外メーカーの機器しかないため、結果的にSNIPの普及が滞っているのが現状である。このことから、我々は新たに国内メーカーのスパイロメータを利用したSNIP測定を試み、健常成人及びALS患者を対象に、従来の機器で測定したSNIP値とスパイロメータを利用したSNIP値の一致性を検討することとした。<BR>【方法】<BR> SNIPの測定が可能であった健常成人6名(男性3名,女性3名,平均年齢 30.0 ± 3.7 歳)とALS患者10例(男性5例,女性5例,平均年齢 67.0 ± 7.8 歳)を対象とした。従来の測定は、SNIP測定用の口腔内圧計(RPM01;Micro Medical Ltd.)に測定用のプローブ(NPLG00;Micro Medical Ltd.)を接続して実施した。一方、スパイロメータを利用した測定は、電子診断用スパイロメータ(オートスパイロAS507;Minato Medical Science Co.,Ltd.)に呼吸筋力計(AAM377;Minato Medical Science Co.,Ltd.)を接続し、さらに、マウスピースアダプタ部分を閉塞させ、リーク穴に鼻用プローブ(NPLG00;Micro Medical Ltd.)を装着することで実施した。方法はKamideら(2009)の報告に準拠し、両機器ともに5回ずつ測定を行い、最大値を解析の対象とした。なお、機器の測定順序や疲労の影響は十分に考慮した。両測定値の一致性は、両測定値間でPearsonの積率相関係数を算出し、さらにBland & Altmanの報告による方法(1986)にて、両機器間の誤差を検証した。<BR>【説明と同意】<BR> 測定の実施に関しては、口頭にて説明を行い、同意を得た後に実施した。なお、ALS患者の呼吸機能検査は診療および診断目的で測定された結果のみを用いた。<BR>【結果】<BR> 健常成人の従来の機器で測定したSNIP値は104.8 ± 34.9 cmH2Oで、スパイロメータを利用して測定したSNIP値は105.2 ± 36.2 cmH2Oであり、両測定値間で極めて強い正の相関を認めた(r=0.99,p<0.01)。なお、両測定値間の誤差は、0.4 ± 4.7 cmH2Oで、誤差の95%信頼区間は、-4.54~5.34 cmH2Oであった。一方、ALS患者では、従来の機器で測定したSNIP値は37.6 ± 23.6 cmH2Oで、スパイロメータを利用して測定したSNIP値は37.0 ± 22.4 cmH2Oであり、両測定値間で極めて強い正の相関を認めた(r=0.99,p<0.01)。両測定値間の誤差は、-0.6 ± 3.9 cmH2Oで、誤差の95%信頼区間は、-3.38~2.18 cmH2Oであった。なお、健常成人及びALS患者ともに、全てSNIP値と両測定値の誤差との間に相関関係は認められなかった。<BR>【考察】<BR> 健常成人、ALS患者ともに、両測定値間で1に近い極めて強い相関を認め、測定値の誤差も最大4~5 cmH2Oとわずかであることから、スパイロメータを利用したSNIP測定は従来の機器の代替として妥当性を有すると考えられ、呼吸機能の経時変化の把握やNPPV導入などの判断基準になり得るものと思われた。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> ALS患者における呼吸理学療法において、吸気筋筋力の評価指標は重要である。本研究の結果より、 ALS患者の吸気筋筋力を評価する測定手段の一つを提示することが出来たと考える。<BR><BR><BR><BR><BR><BR>
収録刊行物
-
- 理学療法学Supplement
-
理学療法学Supplement 2010 (0), DeOS3051-DeOS3051, 2011
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
- Tweet
詳細情報 詳細情報について
-
- CRID
- 1390001205571463040
-
- NII論文ID
- 130005017577
-
- 本文言語コード
- ja
-
- データソース種別
-
- JaLC
- CiNii Articles
-
- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可