肩関節挙上運動時にみられる肩甲骨の変位の分析

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  • 肩甲骨面での挙上運動時の計測より

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抄録

【目的】我々は,肩甲胸郭関節における運動の体表計測を超音波動作解析装置にて行い,第44・45回日本理学療法学術大会にて発表を行った。これらの先行研究では,肩関節外転運動に伴い肩甲骨の上方回旋角と後傾角が増加すること,水平面での運動については一定の傾向を示されないことを確認した。また,外転角度の増大に伴い体幹の側方傾斜角が増大し,その傾向は上肢遠位部への負荷がかかることで強くなることが分かった。しかし,測定条件を肩関節外転角0°,45°, 90°の3条件としていたため,肩甲骨運動の傾向性を示すことはできたが,肩関節挙上に伴う運動パターンを詳細に分析することができなかった。そこで今回は,肩甲骨面における肩関節挙上を30°単位での計測し,前額面および矢状面での運動パターンを分析・検討したので報告する。<BR>【方法】対象は,整形外科疾患の既往のない健常成人男性8名で,平均年齢は22.6±3.0歳,身長171.1±5.9cm,体重61.2±5.6kgであった。計測には超音波動作解析システム(zebris社製CMS-20S)を用いた。受信機を被験者背側に設置し,両側の肩峰および上後腸骨棘,挙上側の肩甲棘三角,肩甲骨下角,第7頸椎・第4腰椎棘突起を順次触診した後に,ポインターにてマーキングを行った。課題は,座位における肩甲骨面での肩関節挙上運動(以下,肩挙上運動)として,計測は利き腕(全例右側)のみで行った。開始肢位は足底が十分に接地した端座位とし,肘関節は伸展位,手関節・手指は軽度屈曲位に保持させた。まず開始肢位での計測を行い,その後ランダムに0°,30°,60°,90°,120°,150°の肩挙上運動を行わせ,静止肢位において計測を行った。<BR>ソフトウェアにはZebrisWinspineを使用し,各ランドマークの空間座標を計測した。前額面では肩峰と肩甲棘三角を結んだ線から上方回旋角,矢状面では肩甲棘三角と肩甲骨下角を結んだ線から後傾角を算出した。この際,第7頸椎・第4腰椎棘突起を結んだ前額・矢状面上の線を基準線として用いた。<BR>統計学的分析にはPASW Statistics 18を用い,有意水準は5%未満とした。角度別にみた肩甲骨の動態変化に関しては,反復測定による一元配置分散分析を用いた後,Tukey法による多重比較を行った。また,上方回旋角と後傾角の関係については,pearsonの相関係数検定を用いた。<BR>【説明と同意】厚生労働省が定める「医療,介護関係事業における個人情報の適切な取り扱いのためのガイドライン」に基づき,対象者には本研究の趣旨を十分に説明し同意を得た上で計測を行った。<BR>【結果】肩甲骨の上方回旋角は,肩関節挙上角度の増大に伴って有意に増加していた(0°:93.6°,30°:113.2°,60°:122.9°,90°:133.3°,120°:150.6°,150°:158.6°)。また,後傾角も上方回旋角と同様,有意に増加していた(0°:3.9°,30°:7.5°,60°:7.5°,90°:20.2°,120°:28.7°,150°:35.0°)。また,多重比較による結果をみると,肩関節挙上角度が少ない場合には上方回旋,後傾ともに有意差がみられない傾向にあった。一方,上方回旋角と後傾角の関係については,90°での上方回旋角と30°での後傾角のみに相関関係が認められた(p<0.05,r=0.832)。<BR>【考察】我々の先行研究では,肩関節外転に伴い肩甲骨は上方回旋,後傾は有意に増加しており,今回の計測でも同様の結果を得た。また,多重比較による結果から,肩甲骨の上方回旋・後傾運動は挙上運動の初期には少ないことが分かり,肩甲上腕関節での運動が有意であることが示唆される。さらに相関分析の結果から,挙上運動の初期段階に後傾させることは,肩関節におけるレバーアームの観点から最も外的モーメントが大きくなる90°挙上位で上方回旋運動を導くことが推察される。臨床的には,90°以上の肩関節挙上運動を確立させるには,初期の肩甲骨の後傾運動を獲得することが重要と思われる。今後,肩関節挙上運動に伴う肩甲骨の運動パターンをより明確にするためには,鎖骨や体幹の運動との関連も含めて検討することが必要と考えられる。<BR>【理学療法学研究としての意義】肩関節挙上運動時の上腕骨-肩甲骨の運動の関連性を把握することは,肩関節挙上運動が困難な肩関節疾患患者の治療内容・目標を設定する上で一助となる。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), AbPI1073-AbPI1073, 2011

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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