マットレスの材質が臥床時の換気運動に及ぼす影響

DOI
  • 宮本 信乃
    にしなすのマロニエ訪問看護ステーション 国際医療福祉大学大学院保健医療学専攻理学療法分野
  • 下井 俊典
    国際医療福祉大学保健医療学部理学療法学科
  • 藤沢 しげ子
    国際医療福祉大学大学院保健医療学専攻理学療法分野 国際医療福祉大学保健医療学部理学療法学科

抄録

【目的】難病とは原因が現在の段階において不明であり, 原因的治療法がない.また生命予後に関して発症から一定期間慢性の経過をたどり,長期間に渡り更なる機能低下が生じると環境調整が必要になる.症状が重症化すると,呼吸機能障害を合併していくものもある. 環境調整の一つにマットレスの導入があり, 自力で体動が困難となった難病患者へ, 褥創防止の為にエアマットレスが導入されることが多い. しかし呼吸機能障害を考慮したものはない. そこで今回,材質の異なるマットレスが換気運動にどのような影響を与えるのか, 呼吸機能評価と伴に検討することを目的とした.<BR>【方法】対象は, 呼吸循環器系に障害を持たない健常成人20名(平均年齢26.8±5.1歳). マットレスは, (1)畳, (2)ウレタンフォームマットレス, (3)エアマットレス(モルテン製)の3種類とし, それぞれ組織硬度計(伊藤超短波株式会社)を用いて硬さを測定する.マットレス上へ背臥位をとり,被験者の両上肢は体側へ沿わせる. 3分間の安静をとった後,各マットレスにつき6回ずつスパイロメーターと, 胸郭拡張差を測定する. マットレスを換えて測定し, 間に3分間の安静を入れる. スパイロメトリーの測定は肺活量, %肺活量, 一回換気量を測定, 胸郭拡張差はメジャーを使用し, 最大吸気と最大呼気時の胸郭周囲径の差を, 腋窩高, 剣状突起高, 第10肋骨高の3か所で求める.統計学的分析として, 換気指標(VC, %VC, TV), 胸郭拡張差(腋窩高, 剣状突起高 ,第10肋骨高)を従属変数とし, マットレスの種類(3水準)を1要因とした反復測定による分散分析を行った. 分散分析の結果, 主効果の認められた要因については多重比較(Tukey HSD) を用い, いずれも有意水準は5%とした.<BR>【説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき, 対象者に対して研究の目的を説明し同意を得た上で研究を行った.<BR>【結果】VCは, 畳,ウレタンフォームマットレス, エアマットレスの順に4.26±0.66L, 4.27±0.65L, 4.32±0.69Lであり,各マットレス間において有意差は認められなかった. また%VCはそれぞれ, 100.1±13.2%, 100.3±12.7%, 100.8±14.2%,TVは0.82±0.31L, 0.83±0.28L, 0.82±0.30Lであり,いずれも各マットレス間において有意差は認められなかった.対して胸郭拡張差の腋窩高は,それぞれ6.2±1.5cm, 6.7±1.8cm, 7.1±2.0cmであり,胸郭拡張差の剣状突起高は,5.8±1.3cm, 6.3±1.3cm, 6.6±1.3cmであり, いずれも畳はエアマットレスと比較して有意に低い値を示した. 胸郭拡張差の第10肋骨高は, 畳,ウレタンフォームマットレス, エアマットレスの順に7.8±0.8cm, 7.3±1.1cm, 7.6±1.1cmであり, 畳はウレタンフォームマットレスと比較して有意に低い値を示した.<BR>【考察】胸郭拡張差の腋窩高と剣状突起高でそれぞれ, 畳とエアマットレスを比較した結果,畳が有意に小さかった.また胸郭拡張差の第10肋骨高においても, 畳で有意に小さいことを認めた. これはマットレスの硬さが硬い方が体表面接触圧は強く生じ, 胸郭下側部に加わる圧力も強くなる. その結果胸郭拡張運動を妨げエアマットレスより硬い畳において胸郭拡張差が小さくなったと考える.ただし第10肋骨高の畳とエアマットレスで有意差は認められなかった. エアマットレスより硬さの硬いウレタンフォームマットレスにおいて, 畳との有意差が生じたことから, マットレスの硬さ以外の要因も, 胸郭拡張差へ影響を与える可能性が考えられた. またマットレスの硬さの違いによる呼吸機能への影響は認めなかった.対象者を健常成人としたため, 差までは認められなかったと考えられる.<BR>【理学療法学研究としての意義】マットレスの硬さの違いにより, 臥床時の胸郭運動への影響が認められた. マットレスの硬さが硬い方が, 胸郭運動を制限することが明らかになった. このためマットレスを導入する際に, 褥創防止の観点からだけではなく,換気運動への影響も考慮した選定が可能となり得る. これは特に医学的に治療の限界がある, 進行性の疾患患者に対し,より効果的な環境因子からのアプローチにつながると考える.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), DbPI1347-DbPI1347, 2011

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205571498112
  • NII論文ID
    130005017439
  • DOI
    10.14900/cjpt.2010.0.dbpi1347.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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