performance statusの低下した化学療法中のがん患者に対するリハビリテーションの検討

説明

【目的】現在がんの治療成績の向上等により、がんの5年生存率は男女ともに向上し、入院・外来でがんの治療を継続しながら“がんと共存”する時代となってきている。がん患者に対しては本来がんの治癒を目指した治療から、quality of lifeを重視したケアまで、切れ目のない支援を行う必要性が高いが、本邦のリハビリテーション領域ではまだ限られた施設でしか十分な治療を提供できていない現状がある。特に化学療法を実施している患者においては様々な薬剤の副作用により全身状態が悪化しやすく、performance status(PS)の低下ががん治療継続を困難にし、予後をも悪化させることが判明しているため、PSを低下させないようフィジカルリハビリテーション(FR)を実施していくことが近年重要視されるようになってきている。当院は地域がん診療拠点病院として内科・外科領域での総合的ながん診療に携わっているが、当リハビリテーション科でも2007年10月から呼吸器・血液内科領域の化学療法実施中のがん患者へのFRを開始したので、今回成績等を報告する。<BR>【方法】研究方法は電子カルテ等を活用した後方視的研究とした。2007年10月より2009年9月までに当リハビリテーション科に呼吸器・血液内科領域のがん患者のFRの依頼があった44名の、(1)男女比、年齢 (2)依頼科 (3)疾患構成比 (4)治療内容 (5)入院期間及びリハ実施期間 (6)アウトカム(転帰・機能改善度・退院等)等を比較検討した。統計にはPCソフトのstatsel2を用い、危険率5%以下を有意水準とした。<BR>【説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に沿った研究であり、対象者には本研究の主旨を説明し、書面で同意を得た。<BR>【結果】(1)男女比は男:女=26:18、平均年齢は70。1±12。5歳。(2)依頼科は血液内科からの依頼が最も多く26例、ついで呼吸器内科からのものが18例であった。(3)疾患構成では血液内科では悪性リンパ腫14例、白血病7例、多発性骨髄腫2名、その他3例。呼吸器内科では全例肺がんであった。(4)全例が化学療法または化学療法・放射線治療併用中でのFRの依頼。FRの依頼内容としては何とか自力歩行可能だが予防的にFRを依頼されたもの10名、がん治療によりPerformance Status(PS)が低下したため離床等を目的に依頼されたものが34名であった。(5)全例の入院期間は69。9±49。3日、そのうちFR実施期間は46。9±39。5日。(6)全症例のうちFR完遂例は30例、中止例(原因は全て死亡)は14例。FR完遂例のリハ開始時FIMは62。5±32。1、終了時FIM86。1±34。0であり、リハ介入後有意なFIMの改善が認められた(p=0。019)。リハ完遂30例の歩行機能は19例が何らかの形で歩行を獲得したが、4例が立位まで、7例はベッド上の生活に留まった。また転帰として自宅に退院したものは21例、他施設に転院したものは9例。<BR>【考察】対象の平均年齢が70。1歳と高齢であること、また肺がんや血液がんは疾患自体の予後が他臓器がんと比較してもそれほど良好ではないこと、そして化学療法によりPSが低下した患者に対してFRを行うということでハイリスクな対象が多く、かなり厳しい結果を予想していたが、対象の68%がFRを完遂できており、また完遂例ではFIMの有意な改善や移動能力の獲得も認められている。発熱、血球数低下、栄養管理など内科的な全身状態のコントロールが出来ていない症例では当然FRの効果も発揮できないが、PSが低下していても、ある程度全身状態のコントロールができている症例では、FRの実施は検討の余地があるのではないかと考える。<BR>【理学療法学研究としての意義】がん患者の理学療法研究としては外科術後や、比較的安定した化学療法中の患者に対しての報告が多く、化学療法中でかつPSが低下したようなハイリスクの対象に対しての報告はまだ少ない。今回の結果では全身状態を管理しつつ理学療法を実施することでもある程度の成果を発揮できることが示唆された。しかしまだ化学療法中の患者に対する理学療法の運動処方(強度・頻度・時間など)は不明な点が多く、リスク管理を含めて明らかにしていかなくてはならない点も多いと考える。今後は症例の蓄積からより効果的な対象の選択方法や、医師看護師サイドへの啓発等を通じて、理学療法ががん治療の一助となるよう、検討していきたい。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), DbPI1351-DbPI1351, 2011

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205571503104
  • NII論文ID
    130005017443
  • DOI
    10.14900/cjpt.2010.0.dbpi1351.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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