非利き手トレーニングにおける脳内賦活部位の変化の検討

  • 皆方 伸
    秋田県立脳血管研究センター機能訓練部
  • 今 直樹
    秋田県立脳血管研究センター機能訓練部
  • 高見 彰淑
    秋田県立脳血管研究センター機能訓練部
  • 豊嶋 英仁
    秋田県立脳血管研究センター放射線科診療部
  • 中村 和浩
    秋田県立脳血管研究センター放射線医学研究部
  • 木下 俊文
    秋田県立脳血管研究センター放射線医学研究部
  • 長田 乾
    秋田県立脳血管研究センター神経内科学研究部

書誌事項

タイトル別名
  • 非利き手箸操作におけるfMRIでの測定

説明

【目的】<BR>脳卒中片麻痺患者が利き手に運動麻痺を後遺した場合,日常生活活動の多くを非利き手で実施することが求められる.その中でも,箸操作は,高度な巧緻性を要求される動作であり,脳卒中リハビリテーションで行われる利き手交換での代表的な課題の1つとなっている.しかし,脳機能画像を用いて,非利き手での箸操作獲得を詳細に検討した報告はない.そこで,健常者を対象にして,非利き手で箸操作の練習を行うことで,脳内賦活部位にどのような変化が表れるのか,機能的MRI(以下,fMRI)を用いて測定し,検討を行った.<BR><BR>【方法】<BR>対象は,右利きの健常成人6名(男性3名,女性3名.24.5±1.0歳)とした.各被験者に対して,2種類の箸操作の検査を実施した.(1)机上検査として,皿の中央を40cm間隔に2枚の皿を設置し,その中の直径1cm大のビー玉5個を片方の皿から他方の皿へ移動させる時間を記録した.利き手,非利き手ともに,左側から右側,右側から左側の2方向のビー玉移動を各2回測定し,各々の最速値を平均し,利き手,非利き手それぞれの代表値として採用した.(2)fMRI測定は,3T MRI装置(Siemens社製 Magnetom Verio)を用いて,全脳をGE-EPI法(TR/TE=3000/30ms,voxelサイズ 3×3×3mm )で撮像した.fMRIの課題は,箸先の開閉操作を採用した.各被験者について,箸操作30秒間と,箸を操作しない休息状態30秒間を1ブロックとし,それを3回繰り返すブロックデザインとした.MRI画像の処理は,SPM8により,体動補正,標準脳への変換をおこなった後,被験者全体で集団解析を行い,賦活部位の同定(p<0.001)を行った.賦活部位について,AAL(Automatic Anatomical Labeling)を使用し,その解剖的な位置を判別した後,左右大脳半球の賦活部位の面積をそれぞれAL,ARとし,Lateralization Index (以下,LI)を,右手の場合はLI = (AL-AR)/(AL+AR),左手の場合はLI = (AR-AL)/(AR+AL)として求めた.この数値は,1.0に近づくほど片側性の賦活優位を表す.上記の検査は,トレーニング開始時と4週間後の2回測定した.トレーニングは,箸でビー玉を摘む運動を,1日10分間2セットとし,週5日を4週間実施させた.統計学的検定として,箸操作の時間の検定には,対応のあるt検定を実施した.<BR><BR>【説明と同意】<BR>対象者に対して,本研究の主旨やMRI撮影について,十分な説明を実施し,実験内容の理解が得られた上で,書面上での研究協力の承諾を得た.なお,fMRI撮影は,医師の立ち会いのもと実施した.<BR><BR>【結果】<BR>箸操作の平均時間は,利き手で開始時10.3±3.2秒,4週後8.8±1.3秒と統計学的有意差は認めなかったが,非利き手で開始時14.5±1.7秒,4週後10.6±3.5秒と有意な時間の短縮がみられ(p<0.05),トレーニングの効果を認めた.fMRI測定による脳内賦活部位の検討に関して,利き手の場合は対側の一次感覚運動野,同側の小脳半球の側性化した賦活が確認された.大脳半球におけるLIは,開始時,4週後ともに1.00で有意な変化はなかった.一方,非利き手の場合は,2回の測定ともに,両側の一次感覚運動野,補足運動野,小脳半球などの広範な賦活を認め,利き手の箸操作と比較して大きな差が認められた.LIは,開始時0.27から,4週後0.36と増加し,対側半球への側性化と同側大脳半球の賦活部位の面積の減少が確認された.<BR><BR>【考察】<BR>今回の検討の結果, 利き手と非利き手での箸操作における脳内の賦活部位は,明らかな違いを示した.近年の脳機能イメージング研究では,右利き者の左手運動時や,手指の複雑運動時に同側半球の賦活がみられる報告がされている.箸操作に関して,利き手では日常生活で常に行われる動作であり,その難易度は低い動作である.しかし,非利き手においては,高度な巧緻性を要求され,難易度が高い動作である.この動作の難易度の違いが,賦活部位の違いに影響しているものと考えられる.4週間のトレーニング後の変化に関して,非利き手での箸操作スキルの向上と同時に,LIの増加,同側大脳半球の賦活部位の面積の減少が認められた.このことは,4週間のトレーニング効果により,非利き手の巧緻運動に対する脳機能の側性化と省力化が進んだことを示していると考えられる.これには,非利き手での箸操作の運動プログラムが形成されてきていること,スキルの向上により難易度が変化したことが関与したものと考える.<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>非利き手での運動学習の過程を,画像所見も加えて詳細にしていくことは,脳卒中患者における利き手交換の治療プログラムを立案してことに関して,有益な情報になると考える.<BR>

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), AbPI1115-AbPI1115, 2011

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

キーワード

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205571541120
  • NII論文ID
    130005016530
  • DOI
    10.14900/cjpt.2010.0.abpi1115.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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