認知課題付加および障害物の色の違いが跨ぎ動作に及ぼす影響

DOI

抄録

【はじめに、目的】 高齢者の要介護の原因として転倒は脳血管障害,高齢による衰弱に続き第3位である.転倒原因の中でも敷居や段差でのつまずきは高齢者にとって頻度の多い問題の一つである.日常場面では複数の要因に注意を分配して生活動作を行う事が多いため,運動課題に認知課題を同時付加した時の障害物跨ぎ動作への影響が報告されている.高齢者では,これらに加えて視力の低下やコントラストの低下など視機能低下による転倒リスクが高く,床と段差の見分けが付きにくい色合いでは転倒リスクが増大するとされている.このように,視機能の低下は転倒と密接に関わっており,注意が分配された条件下では,さらに転倒リスクを増大させる可能性がある.しかし認知課題に加えて障害物の色や床面とのコントラストによる影響を調査した報告はなされていない.そこで,本研究の目的は認知課題付加および障害物の色の違いが跨ぎ動作に及ぼす影響を調査する事とした.【方法】 対象は健常大学生24名(平均年齢21.5±0.7歳)とした.運動課題は6mの歩行路の開始位置から4m地点に設置した障害物を歩行中に跨ぐ事とし,動作中の空間的・時間的指標を3次元動作解析装置(アニマ社製)にて測定した.障害物は高さ・奥行き4cm,幅60cmで黒色,白色,青色の紙製とし,反射マーカーは,両下肢の腸骨稜,大転子,膝関節外側裂隙中央,外果,第5中足骨頭に貼付した.運動課題(跨ぎ動作)のみの条件をSingle-task(以下:ST),運動課題遂行中に認知課題(連続7減算)を付加した条件をDual-task(以下:DT)とし,障害物の色別にSTおよびDTでの跨ぎ動作を行った.連続7減算は,歩行開始時に提示した数字からできるだけ早く繰り返し7を引き続ける事とした.なお,歩行速度は任意として,障害物は左下肢から跨ぐように統一した.測定回数は被験者の即時的学習効果を考慮して練習なしの1回測定とした.測定項目は左下肢の空間的指標(cm)・時間的指標(sec)とした.空間的指標は,踵接地位置から障害物までの距離(障害物前距離),足先が障害物直上に達した時点の足先と障害物間の距離(クリアランス距離),跨ぎ後の踵接地位置と障害物までの距離(障害物後距離),跨ぎのストライド距離を測定した.時間的指標は,踵接地から足先が障害物直上に達するまでの時間(障害物前時間)とそこから再び踵接地するまでの時間(障害物後時間)および跨ぎのストライド時間とした.データ解析はSTでの各色別比較を一元配置分散分析,STとDTの比較を対応のあるt検定,ST-DT変化量の色による影響の比較にはSTを共変量とした共分散分析を行った.【倫理的配慮、説明と同意】 研究前には全ての被験者に十分な説明を口頭で行い,自由意思にて参加の同意を得た.【結果】 ST条件では各色おける空間的・時間的指標に差は認められなかった.各色におけるSTとDTの比較において,クリアランス距離はDTで白色および黒色で有意に増大(白:p<0.05,黒:p<0.01)した.障害物前距離はDTで,白色が有意に増大し(p<0.01),黒色で有意に減少した(p<0.05).障害物後距離はDTで青色が有意に減少し,ストライド長は黒色で有意に減少した(p<0.05).時間的指標はDT条件において青色,黒色では全ての項目で有意に増大した(p<0.05).共分散分析の結果STからDTへの変化量は,障害物前距離においては白色に比較して黒色で短縮方向に減少し(p<0.05),クリアランス距離は白・青色に比較して黒色で増大傾向を示した.【考察】 STとDTとの比較においてクリアランス距離や障害物前距離に有意な変化が認められた.この要因としては,認知課題が付加されたことで,運動課題に対する注意の分散,心理的な焦りや迷いのため,クリアランスを優先した代償的動作になったものと考えられる.さらにDTにおいては跨ぎ動作は障害物の色による影響を受けており,黒色障害物では白色に比較して障害物前距離短縮方向への変化量増大が認められ,クリアランス距離の変化量は白・青色に比較して黒色で増大した.このことから,若年者であっても床面と同色の障害物は認識することが難しい傾向にあると言える.青色は,加齢に伴い弁別感度が低下する色と言われているが,本研究では被検者が若年者であったことから,跨ぎ動作に影響を受けにくかったと考えられる.【理学療法学研究としての意義】 若年者であっても床面と障害物の色が同色の場合,DT条件下では跨ぎ動作のパフォーマンスに影響を及ぼす事が示唆された.このことから,障害物が存在する環境での転倒予防対策には床面と障害物とのコントラストが強調された配色が望ましいと思われる.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2011 (0), Ea1021-Ea1021, 2012

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205571564288
  • NII論文ID
    130004693449
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.ea1021.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ