リアライン・インソールが脳卒中片麻痺患者の歩行・バランス機能に及ぼす効果

  • 栁田 亜矢子
    済生会みすみ病院 リハビリテーション部 リハビリテーション室
  • 新谷 大輔
    済生会みすみ病院 リハビリテーション部 リハビリテーション室
  • 磯田 幸一郎
    済生会みすみ病院 リハビリテーション部 リハビリテーション室
  • 田中 利佳
    済生会みすみ病院 リハビリテーション部 リハビリテーション室
  • 中本 瞳
    済生会みすみ病院 リハビリテーション部 リハビリテーション室
  • 衛藤 継富
    済生会みすみ病院 リハビリテーション部 リハビリテーション室
  • 古川 由美子
    済生会みすみ病院 リハビリテーション部 リハビリテーション室
  • 上村 龍輝
    済生会みすみ病院 リハビリテーション部 リハビリテーション室
  • 山道 和美
    済生会みすみ病院 リハビリテーション部 リハビリテーション室
  • 杉野 伸治
    貞松病院 リハビリテーション科
  • 蒲田 和芳
    広島国際大学 保健医療学部 理学療法学科

説明

【目的】<BR>救命医療の進歩により、現在医療機関で治療を受けている脳卒中患者は1965年ごろに比べ4-5倍に増え、後遺症を持つ患者数が増えてきた。片麻痺患者の速やかな歩行機能の回復は、その後のADLやQOLに重大な影響を及ぼし、社会的コストの低減にも貢献する。片麻痺患者の歩行機能向上に対して短下肢装具や長下肢装具が有効であるが、そのコスト、重量、不快感、装着の手間などが問題視される。一方、麻痺が軽度の者に外側ウエッジを用いた症例報告が散見されるが、その効果についてのコンセンサスは得られていない。<BR>リアライン・インソール(GLAB社)は、足底の凹凸にフィットする形状により、既製品でありながら、簡便かつ容易に5分程度で患者の足にフィットできる。さらに、立体的な骨配列の支持を与える構造を有し、不良荷重パターンによって進行する足部マルアライメントの再構築とともに、足部の側方安定性の向上が得られるとされる。本来、これはスポーツでの使用を前提としたインソールであるため、高い運動性、軽量、容易なフィッティングを特徴とする。<BR>我々は、これを脳卒中片麻痺患者の歩行機能回復過程において、装具との使い分けによって新たな補助具の選択肢となることを期待している。また、麻痺の軽度で装具処方していない患者においても効果が示せれば、退院後のADLやQOLの維持の観点からも有益であると考えられる。以上より、本研究ではリアライン・インソールが脳卒中片麻痺患者の歩行能力とバランス機能改善に及ぼす効果を検証することを目的とした。<BR>【方法】<BR>本研究は、済生会みすみ病院倫理委員会の承認を得た、連続症例前向き研究である。対象者の選択基準は、同病院に入院していた脳卒中片麻痺患者、装具なしで歩行可能(監視レベル以上だが杖の使用・不使用は問わない)とした。除外基準は独歩不可能、歩行時痛を有する者、高次脳機能障害に伴うコミュニケーションに問題がある者、歩行によるADLが行えていないもの、脳卒中急性期治療中患者、急性炎症の関節疾患のある者、介入プログラムを実行するのを難しくするような身体の病気のある者、などとした。<BR>インソールの装着の有無を知らない盲検化された検者が観察因子の計測を実施した。測定は(1)インソールなし、(2)インソール両側挿入、の2条件で実施した。測定項目はTUG(Timed Up and Go test)、10m歩行、片脚立位時間、FFD(前・後・右・左)、FRT(functional reach test)、BBS(Berg Balance Scale)の6項目とし、さらにインソールの使用感をアンケート調査した。統計解析には、対応のあるt検定を用い、有意水準は5%未満とした。<BR>【説明と同意】<BR>全ての被検者によりヘルシンキ宣言に基づき同意を得た。なお同意は、説明書を用い一人ずつ個別で行った。<BR>【結果】<BR>対象者6名の時点での集計結果を記載する。FRTでは(1)26.4±9.9 cm、(2)31.0±10.3 cm (p=0.0284)、BBSでは(1)48.2±7.6点、(2)50.7±6.4点(p=0.0318)と有意に改善した。TUGでは(1)14.1±5.6秒、(2)12.3±3.3秒、10m歩行では(1)13.9±5.9秒、(2)11.8±3.9秒、片足立位(健側)では(1)24.7±26.3秒、(2)33.2±31.2秒、片足立位(患側)では(1)7.9±12.2秒、(2)16.2±27.8秒、と改善傾向を示した。FFDではいずれに方向にも改善傾向を示さなかった。中でも症例Aは、TUGにおいて22.9秒から14.2秒、10m歩行において22.8秒から12.8秒と著明な効果を認めた。足底の違和感、歩行中疲労感、重量について不満、大変不満と回答した対象者はおらず、歩行中の安定感については2名がどちらでもない、1名が不満という回答であった。<BR>【考察】<BR>以上の結果より、リアライン・インソールはFRTとBBSに対して即時効果をもたらすことが判明した。TUG、10m歩行、片足立位時間についてはパワー不足のため有意差は検出されなかったが、症例Aに見られるようにリアライン・インソールの足部安定化が極めて高い歩行能力改善効果を発揮する例もあるなど、対象者によっては高い効果を得る可能性がある。この点については今後症例数が増えるにつれて明快な結論が得られるであろう。その効果発現機序については、別途進行している足部アライメントに生じる変化、バランス機能、足底圧分布に及ぼす効果についての研究によって徐々に解明されることが期待される。この予備的研究において、リアライン・インソールは片麻痺患者のバランス機能と歩行機能に対して即時効果がもたらすことが期待される、と結論付ける。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>リアライン・インソールは片麻痺患者の歩行機能、バランス機能に対して即時効果を及ぼす可能性がある。また、装着に要する時間が5分と短く、不快感を訴える対象者も稀であることから、臨床的な有用性は高い。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), B4P1096-B4P1096, 2010

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205571591680
  • NII論文ID
    130004582083
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.b4p1096.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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