在宅で暮らす筋萎縮性側索硬化症患者の災害時避難方法と外出支援について

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【はじめに、目的】 筋萎縮性側索硬化症(以下ALS)患者は、病気の進行により自分で身体を動かせなくなる.在宅で完全介助・人工呼吸器使用(重傷度分類7)のALS患者が、H23年1月の鳥取県豪雪による停電をきっかけに外出を考えるようになった.豪雪のため国道9号線が不通となり人工呼吸器の交換電池が届かないなど、緊急時避難マニュアルも万全とはいえなかった.理学療法士(以下PT)が週1回の訪問リハビリテーション(以下訪問リハ)を通じて外出・避難方法を考えるなかで、在宅ALS患者の現状や問題点がみえてきたので報告する.【方法】 本人・妻の意見を聞きながら県・市職員と関連サービス職種を交えて、緊急時避難マニュアルの見直しの提案を行う.並行して外出・避難方法を評価し、頭頸部の過度な動作やカニューレ接続部への負担減少を考え、頭頸部保護・移乗・屋外への移動方法を考案する.【説明と同意】 装具製作には主治医同意のもと、本人・家族に製作目的・効果を説明し同意を得た.また本報告にも、本人および家族の同意・承諾を得ている.【結果】 緊急時避難マニュアルの見直しで、災害時避難方法と外出手段の不備や、地域避難所に自家発電機の必要性など、新たに確認された問題への対応を官・民の視点から検討し、より安全性の高い新たな避難マニュアルが立案できた.頭頸部保護は義肢装具士(以下PO)に協力を依頼、既製品のフィラデルフィアカラーを用いて、骨格・皮下組織量・骨突出部の適合および発赤の防止と、気管カニューレ接続動作を阻害しないようにトリミング(形状加工・厚さ調整)を繰り返し行った.装具は前後分割式でバンド固定式を採用し、通気性を考え全体的に穴をあけて装着時の不快感除去を図った。穴をあけたことによる強度低下には、前部は支持面を広くし、後部は全面を覆うビニール支持部分を製作した.ベッド・車椅子間の移乗には、横移乗を安全に行えるようトランスファーボードシート一体型のラクラックスを使用し、車椅子はティルトリクライニング機能付きオーダーメイド車椅子(人工呼吸器・吸引機・パソコン設置台を搭載可能)を専門業者に別注した.住環境から玄関ではなく、寝室から直接屋外へ移動することが有効と考え、昇降機で庭に移動後、駐車場・道路に出るために屋外用スロープを新たに設置した.妻が負担なく装具着用・車椅子移乗ができるように、訪問リハとは別に週1回ヘルパー・看護師と移乗動作練習を開始し、経過観察のなかで助言・協力を行った.妻の介助で装具着用は約2分で可能、介助者1名で装具着用・車椅子移乗・屋外への移動が可能になり、外出・避難方法の習得ができた.【考察】 H23年3月現在、鳥取県東部ALS患者21名のうち在宅患者は9名、呼吸器使用は2名である(県では53名のうち在宅29名).鳥取市では在宅難病指定患者に対して個人の希望・状態に合わせ、緊急時避難マニュアルを作成し救急支援体制が展開され、本症例にもマニュアルが作成されている.しかし、大雪と救急対応の手薄な年末というタイミングが重なり、救急車両対応も間に合わず、家人が歩いて電池を取りに行くなどマニュアルとして機能しなかった.東日本大震災以降、全国的に災害時の避難体制見直しが行なわれている.しかし、想定の中には、全ての可能性が含まれているわけでなく、本症例は獲得した外出手段の見直しとさらなる安全性向上に向け、実際に避難練習をして確かめる必要がある.移乗時の頭頸部保護には、頚胸椎装具やヘッドマスターカラーなどが多く用いられるが、在宅生活では煩雑さや不快感から使用頻度が減少しやすいとの報告もある.本症例の外出時は、一人が首を固定し数人で抱えるなど介助量や負担の大きさが課題であった.そこで最初から簡便で扱いやすい既製品を用い、さらに着脱の容易さを追求した.繰り返しのトリミングで細かな調整を行い、装着時の不快感を極力減らすことができた.その結果、妻は着脱介助に負担を覚えず快適に使用できるようになり、本人にも外出に対する安心感を与え、災害時の避難方法獲得につながった。訪問リハは他サービスとの併用から週1回に限られており、訪問時にPOと同行するための時間調整や、トリミングに4回(約1ヶ月)と長い期間を要した点が今後の課題である.【理学療法学研究としての意義】 PTは本人・家族に装具製作・移動手段獲得・介助方法の指導を行い、県・市職員にPT評価・活動内容を説明し在宅患者の緊急時マニュアル見直しへの助言を行った.在宅生活から外出に向けての橋渡しとしてPTの専門知識や助言が求められており、行政組織に対しても多職種連携として今後取り組みが期待される.

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Details 詳細情報について

  • CRID
    1390001205571616512
  • NII Article ID
    130004693483
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.eb0607.0
  • Text Lang
    ja
  • Data Source
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • Abstract License Flag
    Disallowed

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