筋疲労による固有受容感覚の低下が筋出力の制御に与える影響

この論文をさがす

説明

【目的】<BR>筋疲労の影響としては筋出力の低下に加え,筋出力の制御が困難になることが報告されており,パフォーマンスの低下や傷害発生の原因の一つと指摘されている。筋疲労により筋出力の制御が困難になる原因としては,筋出力の低下に伴い,参加する運動単位が増加すること,前角細胞の発火頻度が増加することが指摘されている。また筋疲労によるその他の影響として,関節覚の低下を来すことが報告されている。筋出力の制御には,筋や腱などの受容器からの情報が必要であり,固有受容感覚の低下は,筋出力の制御にも影響を与えると考えられる。本研究の目的は,筋疲労による固有受容感覚の低下が筋出力の制御に与える影響を明らかにすることである。<BR>【方法】<BR>対象は若年健常男性16名であった。平均年齢は25±5歳,平均身長は170.7±7.2 cm,平均体重は68.7±14.6 kgであった(平均±標準偏差)。筋出力の制御は左膝関節伸展の等尺性筋力を対象に分析した。筋出力の制御は視覚的フィードバック下におけるトラッキング課題を用い測定した。トラッキング課題では筋出力を下腿遠位部に設置したストレンゲージで測定し,A/D変換ボードを介しパソコンに入力し,対象者の前方に設置したディスプレイにリアルタイムで表示した。対象者にはディスプレイを見ながら,発揮した筋出力と目標値(最大筋力の10%と30%)を一致させた。課題の継続時間は8秒間とし,常にフィードバックを与える課題(フィードバック課題)と,開始5秒以降のフィードバックを除去する課題(フィードバック除去課題)の2条件の課題を実施した。測定回数はそれぞれ3回とした。筋疲労課題には最大筋力の50%を20秒間維持する課題を用い,15回もしくは最大筋力の45%を8秒間継続できなくなるまで反復した。筋出力制御の測定に先立ち,3回の最大筋力の測定とトラッキング課題の練習を実施し,筋疲労課題の前後にトラッキング課題を実施し,筋疲労による影響を検討した。また,筋疲労の程度を確認するために,最後に最大筋力の測定を実施した。筋出力制御の視標として開始5.0-7.5秒の目標値と筋出力の誤差のroot mean square(RMS error)を算出した。また,大腿直筋と内側広筋から表面筋電位を導出し,積分値を比較した。筋疲労前後の最大筋力と積分筋電値の比較には,Wilcoxon検定を用い,RMS errorと積分筋電値の比較には疲労とフィードバックを要因として反復測定の二元配置分散分析を用い分析した。有意水準は5%とした。なお本研究のデータの一部は第37回日本臨床バイオメカニクス学会にて発表したものである。<BR>【説明と同意】<BR> 測定開始前に趣旨を十分に説明し,書面にて同意を得た。なお,本研究は鹿児島大学医学部倫理委員会の承認を受けて実施した(承認番号170)。<BR>【結果】<BR>筋疲労課題により最大筋力は有意に低下し(p<0.001),疲労前の71.9%に低下した。また最大筋力発揮時の大腿直筋と内側広筋の積分筋電値は有意に増加した(p<0.001)。最大筋力10%の課題では,RMS errorがフィードバック除去課題で有意に高い値を示したが(p<0.001),筋疲労による有意な影響(p=0.059),交互作用(p=0.582)は認めなかった。最大筋力30%ではRMS errorが,フィードバック課題では0.73±0.24から0.77±0.29(疲労前,疲労後)に増加し,フィードバック除去課題では1.60±0.83から2.12±1.50に増加した。10%の課題と同様にフィードバック除去課題で大きい値をしたが,疲労とフィードバック間に有意な交互作用を認め(p=0.027),フィードバック除去課題では疲労に伴うRMS errorの増加が大きい傾向を示した。積分筋電値の比較では,いずれの課題でも疲労後に増加し,フィードバック除去課題ではフィードバック課題に比べ,増加量が小さい傾向を示した。10%の課題では大腿直筋(p=0.025)に,30%の課題では大腿直筋(p=0.001)と内側広筋(p=0.001)で,疲労とフィードバック間に有意な交互作用を認めた。<BR>【考察】<BR> フィードバック課題では視覚により,発揮した筋出力と目標値の誤差を検出するので,固有受容感覚の影響を受けにくい,一方フィードバック除去課題では固有受容感覚による制御が主体となる。今回の結果では,フィードバック除去課題で筋疲労によるRMS errorの増加が大きく,筋疲労による固有受容感覚の低下が筋出力の制御に影響を及ぼすことが示唆されたと考える。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 筋疲労に伴うパフォーマンスの低下は,スポーツ以外でも筋持久力の低下した高齢者でも観察される。筋疲労がパフォーマンスに与える影響を分析することは,耐久性を考慮した運動療法の基礎情報として意義があると考える。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), AbPI1049-AbPI1049, 2011

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

詳細情報 詳細情報について

問題の指摘

ページトップへ