地域高齢者における運動が認知機能に及ぼす影響について

  • 甲斐 淳子
    誠愛リハビリテーション病院 リハビリテーション部理学療法課
  • 高野 吉朗
    帝京大学福岡医療技術学部理学療法学科
  • 渕 雅子
    誠愛リハビリテーション病院 リハビリテーション部作業療法課

Bibliographic Information

Other Title
  • チイキ コウレイシャ ニ オケル ウンドウ ガ ニンチ キノウ ニ オヨボス エイキョウ ニ ツイテ

Search this article

Abstract

【はじめに、目的】 軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment:以下、MCI)は、認知症に移行すると考えられている。それゆえに、認知症の前段階であるMCIを予防することは重要である。予防には食生活、運動、知的活動や人とのつながりの関与が知られている。特に運動に関する最近の研究では、アルツハイマー型認知症の病理的兆候のひとつであるアミロイドβたんぱく質の沈着を運動によって減少させることできることも明らかである(Lazarov2005)。本研究の目的は、地域高齢者をウォーキングを行ってもらう運動群と行わない非運動群に分け、前後で認知機能の変化を比較し、運動習慣が認知機能に影響を及ぼすのかを明らかにするものである。【方法】 地域在住の健常高齢者25名を運動群14名(男性3名、女性11名、平均年齢72.3±4.97歳)、非運動群11名(男性2名、女性9名、平均年齢70.5±2.81歳)に分けた。介入期間は、58日間であり、運動群に対し地区公民館に隔週で全5回、運動に関する講義と運動指導(ウォーキング、ストレッチ、筋力トレーニングなど)を行った。また運動群には歩数計を各自で用意してもらい、ウォーキングを週3回以上、可能な限り毎日行うように指導した。1回のウォーキング時間及び歩数量に関しては厳密な指示は行わず、対象者自身の意思に任せて歩数量を増やす努力をするように説明した。歩数計はウォーキング時のみ装着し、ウォーキング終了時に歩数計の歩数を配布したウォーキングカレンダーに記載してもらった。介入前後の認知機能の変化を確認するために、矢富ら(2010)が開発した一般高齢者用の集団式認知機能検査であるファイブ・コグ検査(以下、本検査)を用いた。課題は、運動課題・手がかり再生課題・文字位置照合課題・時計描画課題・動物名想起課題・類似課題の6項目から構成される。集計は、偏差値得点及び総合得点が自動的に得られる表計算ソフトであるエクセルフォーム「Five-cog(ver.32)」により、年齢、教育年数、性別で調整された偏差値を得点とし、総合得点及び各項目得点を算出し、介入前後での得点を比較した。検定には対応のあるt検定を用い、有意水準5%以下を有意差とした。なお統計処理についてはSPSS(for Windows 14.0J)を用いた。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者に研究の十分な説明を行い、同意を得て研究を開始した。なお、成果発表時は個人が特定されないことを約束した。【結果】 総合得点において、両群共に初期と最終を比較し有意差が認められた。平均改善率は、運動群が7%、非運動群が6%で同等の結果であった。各項目の得点において、平均改善率は、運動群において注意項目7%、記憶項目19%、視空間項目5%、言語項目1%、思考項目2%の改善であった。非運動群においては、注意項目2%、記憶項目12%、視空間項目2%、言語項目5%、思考項目8%の改善であった。両群共に記憶項目のみ有意な改善が認められ、平均改善率は運動群が高かった(19% vs. 12%)。他の項目では認められなかった。運動群において、ウォーキングカレンダーを毎日記載した者は14名中11名であった。総日数58日間における平均歩行日数は45日、平均ウォーキング施行率は78.2%、1日の平均歩数は4389.5歩であった。【考察】 本研究の介入前後の総合得点の変化において、両群に有意な改善が認められたが、平均改善率は同等であり、運動群の特異性は認められなかった(7% vs. 6%)。各項目では、記憶項目のみ両群共に有意な改善が認められたが、平均改善率では運動群が高かった(19% vs. 12%)。各項目の平均改善率は、運動群6.8%及び非運動群4.6%で、運動群がわずかに上回った。Laurin(2001)らは、5年間の追跡研究において、1週間に3回以上、ウォーキングなどの運動をしている人はまったく運動しない人に比べて、認知症の危険度が半分であると報告している。本研究においても、運動群に週3回以上行うように指導したところ、およそ週5日以上(全日数の78.2%)はウォーキングを行った結果であり、このことが有意な改善につながったと推察される。一方、非運動群において同等の改善が認められた。矢富ら(2009)は旅行・料理・囲碁・パソコンなどの知的活動も認知機能の低下を遅らせることが出来ると報告している。非運動群が改善した理由は明確では無いが、全員が普段の生活で週3回以上外出する活動的な毎日を過ごしている方々であった為に、社会的交流や知的活動により運動群と同等の改善につながったと推察される。【理学療法学研究としての意義】 現在、認知症予防に対して、理学療法士による質の高いエビデンスは少ない。しかしながら、我々が得意とする「運動」という方法を用いて認知症予防の有効性を明らかにすることで、高齢者の健康寿命を延伸させることができる。

Journal

Details 詳細情報について

Report a problem

Back to top