高齢者における重心動揺計および不安定傾斜板上での立位姿勢制御能力と転倒との関連

説明

【はじめに、目的】 我々は第46回学術大会において、安定した支持面上(重心動揺計上)での静止立位保持能力よりも、不安定な支持面上(不安定傾斜板上)での立位姿勢制御能力の方が、高齢者の日常生活活動量と関連が強いことを報告した。高齢者における立位姿勢制御能力の低下は日常生活活動量の低下を招くだけでなく、転倒を引き起こす重要な因子と考えられている。高齢者の立位姿勢制御能力と転倒との関連については、重心動揺計上や床上など安定した支持面上での姿勢制御能力を調べた報告が多く、不安定な支持面上での立位姿勢制御能力と転倒との関連については明らかではない。そこで本研究では高齢者の安定した支持面上(重心動揺計上)および不安定な支持面上(不安定傾斜板上)での立位姿勢制御能力を評価し、これら姿勢制御能力と転倒との関連について明らかにすることを目的とした。【方法】 対象は施設入所高齢者16名(男性3名、女性13名、平均年齢83.1±7.1歳)とした。歩行が自立している者を対象とし、運動機能の測定に大きな影響を及ぼすほどの重度の神経学的障害や筋骨格系障害および認知障害を有する者は対象から除外した。重心動揺計(アニマ社製Gravicorder G-5500)を用いた姿勢制御能力の評価では、開眼閉脚での静止立位を20秒間保持した際の重心動揺面積を測定し、前後方向および左右方向の実効値をデータとして用いた。また、同様の重心動揺計を用い、開眼開脚立位で、前方、後方、右側方、左側方にそれぞれ最大努力で重心移動させた際の足圧中心移動距離を測定し、前後方向および左右方向の最大振幅値を求めた(以下、最大重心移動距離)。不安定傾斜板上での立位姿勢制御能力の評価には、不安定板に加速度計が取り付けられたディジョックボードプラス(酒井医療社製)を用いた。全方向へ傾斜する不安定板上において開眼開脚立位で出来るだけ不安定板が水平位になるよう立位保持するよう指示し、20秒間立位保持した際の不安定板の水平からの傾斜角度(最大傾斜角度14°)をサンプリング周波数40Hzでコンピューターに取り込んだ。前後方向、左右方向の不安定板の水平位置からの平均角度変動を評価した。なお、平均角度変動は測定中に傾斜した角度の絶対値を平均した値で不安定板の動揺の大きさを示す。不安定板上での姿勢制御能力の評価は1回の練習の後に2回測定を行い、その最小値をデータとして用いた。対象者の過去1年間の転倒経験の有無を調査し、転倒歴のある転倒群と転倒歴のない非転倒群の2群に分類した。2群間の各測定項目をMann-Whitney検定を用いて比較した。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 すべての対象者に本研究の説明を行い、同意を得た。【結果】 転倒群は6名(平均年齢85.7±6.7歳)、非転倒群は10名(平均年齢81.5±7.2歳)であり、2群間に年齢の有意差はみられなかった。不安定板の左右方向の平均角度変動は転倒群2.9±1.2度、非転倒群1.2±1.5度であり、非転倒群よりも転倒群のほうが有意に大きい値を示した(p<0.05)。一方、不安定板の前後方向の平均角度変動は転倒群2.6±2.0度、非転倒群3.5±2.6度であり、2群間に有意差はみられなかった。また、重心動揺計上での左右方向の最大重心移動距離は転倒群10.4±1.9cm、非転倒群16.9±4.9cmであり、非転倒群と比較して転倒群は有意に小さい値を示した(p<0.05)。一方、前後方向の最大重心移動距離は転倒群7.7±2.8cm、非転倒群8.9±2.7cmであり、2群間に有意差はみられなかった。静止立位時の重心動揺は前後方向、左右方向の実効値のいずれにおいても2群間に有意な差は認められなかった。【考察】 高齢者の転倒予防のためには、安定した支持面上だけでなく、不整地など不安定な支持面上での立位姿勢制御能力も重要である。本研究において、安定した支持面上(重心動揺計上)および不安定な支持面上(不安定傾斜板上)における姿勢制御能力と転倒との関連を分析した結果、不安定板の左右方向の平均角度変動と重心動揺計上での左右方向の最大重心移動距離のみ、転倒群と非転倒群との間で有意な差が認められた。すなわち、安定した支持面上での静止立位保持能力よりも不安定な支持面上での姿勢制御能力や随意重心移動能力の方が転倒との関連が強く、特に前後方向よりも左右方向の姿勢制御能力が転倒リスクと関連していることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果、虚弱高齢者の転倒予防のためには不安定な支持面上での左右方向の姿勢制御能力あるいは左右方向の動的姿勢制御能力について評価、介入することが重要であると考えられた。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2011 (0), Eb0621-Eb0621, 2012

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205571650304
  • NII論文ID
    130004693497
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.eb0621.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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