下肢血圧値の有用性

説明

【目的】患者の離床を安全に進める上で循環機能(血液を全身の各臓器に循環させる機能のことで心臓・血管・循環血液量から構成される)の評価は欠かせない。中でも血圧は患者の血行動態(血流と血管壁の力学的相互作用)について重要な情報を提供してくれる。しかし、シャントを形成している透析患者や痙性の強い脳卒中片麻痺患者では既に健常側上肢が点滴で管理されているがために通常通りの測定ができない。本研究では下肢の血圧値が上肢の血圧値として代用可能かどうか、その有用性を探る目的で、四肢における血圧値の左右差、上下肢間の違いについて調査した。<BR>【方法】2009年理学療法週間公開事業参加者200例のうち、同意が得られた33例 (男性11例、女性22例、平均年齢49.9±17.2歳)を対象とした。血圧は血圧脈派検査装置VaSera VS-1500(フクダ電子社製)を用い、カフを両側の上腕部と足関節部に巻き、規定された測定方法に従って四肢の収縮期血圧(以下SBP;Systolic blood pressure)及び拡張期血圧(以下DBP;Diastolic blood pressure)を安静背臥位で測定した。なお, 測定精度低下の目安となるABI (ankle brachial pressure Index;足首上腕血圧比)<0.95の者は今回の研究からは除外した。全ての解析はStatView5.0を用い対応のある2群のt検定を行い有意水準は5%とした。<BR>【説明と同意】対象者に対しては、ヘルシンキ宣言に基づき研究の主旨と内容について説明し、理解を得た上で開始した。なお、データは研究目的以外には使用しないこと及び個人情報の漏洩に十分注意した。<BR>【結果】対象者の中でABI<0.95の者はいなかった。四肢の血圧値(平均±SD)は、上肢におけるSBPは左;124.4±13.1mmHg、右;125.8±15.5mmHg、DBPは左;76.9±10.1mmHg、右;76.0±8.3mmHgであった。また、下肢におけるSBPは左;137.4±17.5mmHg、右;138.3±16.9mmHg、DBPは左;72.5±8.4mmHg、右;72.1±8.4mmHgであり、上下肢共にSBP及びDBPにおける左側群と右側群との群間比較では差はなかった。しかし上肢群と下肢群との間ではSBPにおいて差(左;12.9±7.6mmHg、右;12.5±8.3mmHg)を認め、両側とも上肢群に比べて下肢群で有意に高かった(P<0.0001)。<BR>【考察】本研究では、上肢と下肢の間にはSBPにおいて明らかな血圧値の違い(平均12.7±6.1mmHg)が存在することが改めて確認された。下肢(脛骨動脈)では上肢(上腕動脈)に比べ有意に高く、前述の差を下肢のSBPから差し引いた値を上肢の血圧の代替値として利用できることの可能性が示唆された。なお、DBP及び性別においては明らかな違いはなかった。<BR>【理学療法学研究としての意義】末梢主要臓器に十分な血液を灌流するためには少なくても80-90mmHgのSBPが必要であるとされるが、臨床場面では様々な制約により必ずしも上腕での血圧の評価ができるとは限らない。代替手段として下肢の血圧値で離床の可否の判断材料が得られることの意義は大きい。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), D4P3178-D4P3178, 2010

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

キーワード

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205571664384
  • NII論文ID
    130004582685
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.d4p3178.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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