背臥位と側臥位における胸郭運動の違いについて

DOI
  • 橋詰 裕美
    兵庫医科大学ささやま医療センターリハビリテーション室
  • 野添 匡史
    兵庫医科大学ささやま医療センターリハビリテーション室
  • 高山 雄介
    兵庫医科大学ささやま医療センターリハビリテーション室
  • 松下 和弘
    兵庫医科大学ささやま医療センターリハビリテーション室
  • 間瀬 教史
    甲南女子大学看護リハビリテーション学部理学療法学科
  • 高嶋 幸恵
    甲南女子大学看護リハビリテーション学部理学療法学科
  • 和田 智弘
    兵庫医科大学ささやま医療センターリハビリテーション室
  • 寺山 修史
    兵庫医科大学地域総合医療学
  • 福田 能啓
    兵庫医科大学地域総合医療学
  • 眞渕 敏
    兵庫医科大学病院リハビリテーション部
  • 道免 和久
    兵庫医科大学リハビリテーション医学教室

この論文をさがす

抄録

【目的】<BR> 胸郭運動に関して、生理・解剖学的な知見から上部胸郭では前後径の動きが大きくなるポンプハンドル・モーション、下部胸郭では左右径の動きが大きくなるバケツハンドル・モーションが生じると言われてきた。呼吸理学療法においては、様々な肢位におかれた患者の胸郭運動を視診、触診にて評価するが、肢位を変更した際に上記のような胸郭運動がどのように変化するかについての報告は少ない。そこで本研究では、臨床でよく用いられる背臥位、側臥位における吸気に伴う胸郭運動の特徴について検討する事を目的とした。<BR>【方法】<BR> 対象は健常男性6名(年齢30.2±5.1歳)。測定は床上での背臥位、右側臥位の2つの肢位において、安静時呼吸3分間、深呼吸4回について行った。反射マーカーは、背臥位での測定では背部を除き視覚的に認識できる胸郭全面に66個、右側臥位での測定では、右側胸を除き視覚的に認識できる胸郭全面に81個を各対象者に取り付けた。マーカー位置は、3次元動作解析システム(Motion Analysis社製Mac 3D system)を用いて8台の赤外線カメラにて測定した。データはサンプリング周波数100Hzで解析ソフト(Motion Analysis社製EvaRT5.04)に取り込み、反射マーカーの経時的な座標データを算出した。得られた座標データから、安静時呼吸については任意の6呼吸、深呼吸については4呼吸より終末呼気位、終末吸気位の平均座標を算出した後、フリーソフトであるGnuplot(http://www.gnuplot.info/)を用いて、終末呼気位の胸郭形状モデル、及び終末呼気位と吸気位の座標差からベクトルを作成し、終末呼気位から吸気に伴う胸郭運動の方向、大きさを視覚的に評価した。さらに、胸郭モデルをKenyonら(1997)の報告に準じて上部胸郭、下部胸郭、腹部の3つの部位に分け、それぞれの部位における胸郭運動の特徴についても検討した。<BR>【説明と同意】<BR> 各対象者には研究の趣旨を説明し、書面による同意を得た上で実施した。<BR>【結果】<BR> 背臥位における安静時呼吸では、腹部の腹側への運動が最も大きく生じており、上部胸郭では頭側、下部胸郭前面では頭側および腹側への運動が生じていたが、その大きさは腹部に比べて小さかった。また、下部胸郭の側面においては、全例、外側よりも腹側への運動が大きく生じていた。背臥位における深呼吸では各部位において運動の大きさは増加したが、特に上部胸郭や下部胸郭においては腹側と頭側への運動が、胸郭側面においては腹側への運動が大きく生じていた。右側臥位における安静時呼吸では、胸郭前面では背臥位と同様の運動が見られたが、下部胸郭の側面では腹側と外側の運動は同程度に生じ、胸郭背面では外側および背側への運動が大きく生じていた。右側臥位における深呼吸でも、各部位において運動の大きさは増加したが、特に、胸郭側面、背面では外側への運動が最も大きく生じていた。また、背臥位、右側臥位ともに胸郭の床面に近い部位ほど運動が小さい傾向が見られた。<BR>【考察】<BR> 本研究の結果より、背臥位では安静時呼吸、深呼吸ともに腹側への運動が生じやすく、右側臥位では外側への運動が大きくなりやすいと考えられた。一般的に、下部胸郭は外側へ大きく動くと言われているが、背臥位では決してこのような傾向は見られず、このような傾向は右側臥位において顕著に見られた。体位変換に伴う胸郭運動の変化は、横隔膜運動や重力方向の変化が影響を与えているのではないかと考えられた。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 体位変換による胸郭運動方向の変化を把握しておくことは、呼吸器疾患に特異的な病態や患者の呼吸状態の評価、呼吸理学療法手技を実施する上で重要になると考えられる。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), DdPF1044-DdPF1044, 2011

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

問題の指摘

ページトップへ