長期人工呼吸器装着患者に対する理学療法

書誌事項

タイトル別名
  • 歩行訓練が呼吸器離脱に有効であった1症例

抄録

【目的】長期人工呼吸器管理の呼吸器離脱過程において歩行訓練を導入した報告は少ない。今回は、うつ病を併発した長期呼吸器離脱困難例に対しT-Piece Trialと並行して歩行訓練を施行したことで、短時間人工呼吸器が離脱可能となった症例を報告する。<BR>【方法】症例報告<BR>【説明と同意】今回発表にあたりご本人の許可と画像掲載の同意は得ている。<BR>【結果】症例は56歳女性、身長158cm、体重75kg、BMI30。2002年に慢性閉塞性肺疾患(以下COPD)と診断されMRCはGrade3~4、HOT導入(酸素3L)し入院前のADLは自立していた。2007年12月8日に感染による急性増悪で意識消失し、他院にて人工呼吸器管理となる。25日に抜管するも、CO2貯留、意識レベル低下により翌年1月4日に再挿管。18日気管切開術施行。22日治療目的で当院転院。2月22日T-Piece Trial試みるも頻呼吸・呼吸苦・冷汗出現し、SpO2は85%より戻らず2分で中止となった。その後は呼吸器離脱拒否し、精神科でうつ病と診断。5月19日ベッドサイドより理学療法開始した。<BR>初期評価を以下に示す。意識清明、頷きや筆談などでコミュニケーション可能。HR100bpm、SpO292%。人工呼吸器はフジ・レスピロニクス社製のLTV1000を使用し、設定はPCV/ SIMV+PSVでFIO20.3、PEEP4cmH2O、PS10 cmH2O、RR10回/分、吸気時間0.8sec。呼吸実測はRR18~23回/分、VT450mL。右中葉・両下葉に浸潤影有り。胸式で努力性呼吸。頸部・胸郭の動き硬い。両下葉でcoarse crackles音有り。咳嗽有り、排痰困難。T-Piece Trial継続時間はアクアサーム33%8Lで 1分間可能。MMTは四肢F~Gレベル。基本動作は起き上がり全介助、腰かけ座位監視、移乗中等度介助。FIMは運動21点、認知27点。活動範囲はベッド上であった。<BR>理学療法は呼吸筋疲労と全身持久力低下にアプローチすることで、離床や呼吸器離脱を推進させ、活動範囲を広げることを目標とした。理学療法開始日は呼吸訓練・座位訓練・下肢筋力増強訓練・立位訓練を実施した。しかし症例は離床や呼吸器離脱の必要性は理解していたが、訓練には積極的でなかった。そこで上記の訓練に加え、歩行訓練を提案すると症例も意欲的であった。歩行訓練は歩行器を用いて5mから開始し、実施中は全身状態、呼吸器モニターなどを医師や看護師とともにチェックした。訓練量は症例の体調や気分に合わせて調節した。訓練開始時、歩行後のバイタルサインはSpO2約85%、RR約40回/分、HR約100 bpm、呼吸困難感はBorg Scaleで4であった。理学療法開始1ヶ月後にはT-Piece Trial継続時間は約10分間、総歩行距離80M、歩行後のSpO2約85%、RR約30回/分、HR約90 bpm、呼吸困難感はBorg Scaleで1であった。約2ヶ月後の7月15日に転院となった。<BR>転院時のT-Piece Trial継続時間はアクアサーム33%8Lで約30分間。基本動作は移乗が軽介助となり、歩行器歩行は総歩行距離が約100mとなった。歩行後のバイタルサインはSpO2約85%、RR約25回/分、HR約80 bpm、呼吸困難感はBorg Scaleで1であった。FIMは運動22点、認知27点。車いすに乗車する時間が増え、表情も穏やかになった。<BR>【考察】今回短時間の呼吸器離脱が可能になったのは、T-Piece Trialと並行し包括的な呼吸理学療法として人工呼吸器装着下での歩行訓練が有効であったためと考察される。訓練経過において歩行後の呼吸困難感や心拍数・呼吸数が軽減し、それに伴う呼吸器離脱時間の延長がみられた。本症例はCOPDによる換気不全と長期人工呼吸器管理における呼吸筋力低下を中心とした廃用症候群を有していた。歩行訓練は離床による循環改善に加え、骨格筋筋力の回復や全身持久力の改善に有効であり、その効果が呼吸筋疲労を軽減させ、バイタルサインの安定や呼吸器離脱時間の延長につながったと考えられる。文献にも長期人工呼吸器離脱困難例に対し、呼吸器アプローチより離床や全身性トレーニングが呼吸器離脱に有効な場合があるとされている。そして理学療法を継続できたのは、うつ病を考慮し希望に沿った訓練を選択したことで症例が意欲的に臨めたこと、歩行距離という明確な結果がフィードバックできたことで自信がついたことなどが大きいと推察される。また、その結果として活動範囲が広がり、精神的な落ち着きにもつながっていったと思われる。<BR>【理学療法学研究としての意義】長期人工呼吸器離脱困難例に対し、歩行訓練が有効な場合がある。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), D4P3170-D4P3170, 2010

    公益社団法人 日本理学療法士協会

被引用文献 (1)*注記

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205571702528
  • NII論文ID
    130004582677
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.d4p3170.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
    • Crossref
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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