不全脊髄損傷患者における吊り下げトレッドミルトレーニング効果の検討

  • 松浦 武史
    独立行政法人 国立病院機構 村山医療センター リハビリテーション科
  • 水野 勝広
    独立行政法人 国立病院機構 村山医療センター リハビリテーション科
  • 松浦 大輔
    独立行政法人 国立病院機構 村山医療センター リハビリテーション科
  • 藤原 俊郎
    独立行政法人 国立病院機構 村山医療センター リハビリテーション科
  • 松渕 貴之
    独立行政法人 国立病院機構 村山医療センター リハビリテーション科
  • 矢島 寛之
    独立行政法人 国立病院機構 村山医療センター リハビリテーション科
  • 山崎 一路
    独立行政法人 国立病院機構 村山医療センター リハビリテーション科
  • 鎮目 琢也
    独立行政法人 国立病院機構 村山医療センター リハビリテーション科

説明

【目的】<BR>吊り下げトレッドミルトレーニング(Body Weight Supported Treadmill Training 以下BWSTT)は脊髄損傷患者や片麻痺患者の歩行機能改善を目的に行われている.BWSTTでは立脚相での脚全体に加わる荷重情報と股関節伸展にかかわる感覚情報が脊髄歩行中枢(central pattern generator)を刺激するため訓練を行うことによって歩行運動が強化されると言われる.BWSTTを実施した研究は多数あるが,対照研究を行っている研究は少ない.今回,脊髄損傷患者が多数入院している当院において脊髄不全損傷者に対してBWSTTを行い,その効果を検討した.<BR>【方法】<BR>BWSTTの使用機器は,吊り下げはバイオデックス社製のアンウェイシステム,トレッドミルは同社製のゲイトトレーニングシステムを使用した.ABAB型リサーチデザインを用いBWSTTと平行棒内歩行訓練を1週間ごとに1ヵ月~3ヶ月行った.尚、通常の理学療法は毎日実施した.トレーニング頻度は週5日,歩行距離をそれぞれの訓練とも同一にした.BWSTTは時間5~10分,免荷割合は5~50%,電動トレッドミルのスピードは0.2~0.4km/hとした.BWSTTの訓練設定の変更は上出らの基準(下肢のステッピングがトレッドミルの速度に追従できる,体幹の前傾がない,膝折れがない,歩容の乱れがない,患者の反応)を用いて行い,これら5項目すべてを満たしていれば免荷の割合から優先的に可能な限り減少させ,それに伴い速度・時間も増加させた.評価は1週間ごとに行い10m歩行テスト・6分間歩行テスト・Walking Index for spinal cord injury(以下WISCI)・立ち上がり・立位バランスを用いて行った.立ち上がりは自立して立ち上がれる床からの座面までの高さを計測した.立位バランスは座位バランスで用いられるInternational Stoke Mandeville Games(ISMG改)を立位に応用させて使用した.<BR>【説明と同意】<BR>BWSTTにあたり,その解析結果を必要に応じて個人が同定されないかたちで学会その他で公表する可能性につき,書面でインフォームドコンセントを得た.<BR>【結果】<BR>経過とともに4症例中3症例で10m歩行テストにより歩行速度・歩行率の向上が得られ,6分間歩行テストでの歩行距離が向上した.また4症例全てにおいて,立ち上がりが自立して立てる座面の高さが減少した.2症例で歩行能力が向上し歩行器歩行・杖歩行が監視となった.1症例でISMGによる立位バランスが向上した.今回ABABデザインで介入を行ったが,訓練方法による差異は検討できなかった.1症例は痙性が強くなり,途中で訓練中止となった.この症例は今回の症例の中で最も麻痺が重度で痙性があり,平行棒内歩行で努力性を強いため痙性が強まった.<BR>4症例のうち2症例についての歩行能力の特徴的な経過を述べる.症例A:68歳男性ASIAD.この症例では初期評価において歩幅は小さく踵接地は不能であったが,一度目のBWSTT歩容の改善を主目的に介入し,平行棒内歩行でも踵接地が可能となるなど歩容の改善が得られていた.症例B:61歳男性ASIAC.平行棒内歩行での歩容は体幹前傾があり内転歩行が見られ立脚相での下肢の痙性が入り遊脚相への移行が円滑ではなかった.また,平行棒内歩行での疲労度が大きいことや歩行に介助を要した.BWSTTでは平行棒内歩行よりも痙性の出現回数が減少し歩容の改善が得られ徐々に平行棒内歩行訓練に移行できるようになった.<BR>【考察】<BR>症例Bのような麻痺の重い患者において,平行棒内歩行訓練では痙性や支持性の低さにより歩容が悪く介助量もいる.初期では平行棒内歩行訓練は困難な症例も多い.しかし,BWSTTではこれらの要因を改善でき,歩行速度等の歩行能力の改善につながる可能性がある.上記の症例Aのような麻痺の軽い患者において,BWSTTにより歩容の改善を図り易く平行棒内での歩行能力向上に活かすことができるかもしれない.<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>今後,BWSTTの有効な訓練設定,非免荷での訓練との組み合わせ方,BWSTTと平行棒内歩行訓練の時期や重症度による使い分けを症例を重ねて検討していく必要がある.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), B4P2110-B4P2110, 2010

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205571710208
  • NII論文ID
    130004582109
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.b4p2110.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ