要介護高齢者の模擬的浴槽またぎ動作能力と身体機能の関係(第1報)

DOI
  • 齋藤 崇志
    訪問看護リハビリテーションネットワーク リハビリテーション部 桜美林大学大学院老年学研究科老年学専攻
  • 平野 康之
    訪問看護リハビリテーションネットワーク リハビリテーション部
  • 大森 祐三子
    訪問看護リハビリテーション麻生
  • 櫻井 美津子
    社会福祉法人正吉福祉会地域福祉サービスセンターいなぎ正吉苑
  • 大森 豊
    訪問看護リハビリテーションネットワーク リハビリテーション部
  • 渡辺 修一郎
    桜美林大学大学院老年学研究科老年学専攻

説明

【目的】<BR> 入浴は移動動作やまたぎ動作など要介護高齢者(以下、高齢者)にとって難易度の高い動作を含み、転倒等の事故が起こりやすいADL動作といわれている。入浴動作を構成する動作の中で、浴槽の縁をまたぎ浴槽を出入りする動作は、高齢者にとって特に困難な動作の1つであることが指摘されている。そのため、在宅において理学療法士(以下、PT)が高齢者と関わる中で、安全な浴槽またぎ動作方法や福祉用具の選択、適切な介助方法などについて高齢者やその家族、他職種から専門的意見を求められることは多い。<BR> しかしながら、高齢者の浴槽またぎ動作に関係する要因を詳細に検討した報告はみあたらない。そのため、高齢者の浴槽またぎ動作に関する専門的意見は、各PTの経験や勘といった主観的判断に依拠しているのが現状である。高齢者の浴槽またぎ動作に関係する要因を明らかにすることは、浴槽またぎ動作に関する客観的判断基準を提供し、高齢者が安全に入浴を行うための有益な情報になると考える。<BR> 本研究では、浴槽またぎ動作に与える影響の1つである身体機能に注目し、高齢者の模擬的浴槽またぎ動作能力と身体機能の関係を明らかにすることを目的とした。<BR>【方法】<BR> 対象者はデイサービスを利用している要介護高齢者213名の内、取り込み基準(脳血管疾患による著明な運動麻痺や神経筋疾患、認知機能低下を有さない、以下に示す身体機能の測定が全て可能な者)を満たす43名(男性8名、女性35名)であった。対象者の平均年齢は83.8±6.7歳、介護度は要支援が15名、要介護1-2が22名、要介護3以上が4名、非該当が2名であった。主たる疾患の内訳は、整形外科疾患18名、呼吸循環器疾患11名、内科疾患11名、その他3名であった。<BR> 手すりなどを用いることなく障害物をまたぐ動作を「模擬的浴槽またぎ動作」と定義した。マルチハードルコーン(美津和タイガー株式会社)を一部加工し、10cmから50cmまで10cmごとに高さ調節(10、20、30、40、50cm)が可能な障害物を作成した。障害物には幅10cmの板を貼りつけ、浴槽の縁に類似した環境を再現した。身体の一部が障害物に接触し落下させることなくまたぐことができる最大の障害物の高さを身長で除した値を「模擬的浴槽またぎ動作能力」と定義した。<BR> 身体機能の測定は、下肢筋力の指標として体重比等尺性膝伸展筋力(以下、膝筋力)、下肢関節可動域の指標として股関節屈曲可動域(以下、股角度)と膝関節屈曲可動域(以下、膝角度)、バランス能力の指標として開眼片脚立位保持時間(以下、OLS)とFunctional Reach Test(以下、FRT)の測定を行った。膝筋力と股角度、膝角度、OLSは左右平均値を、FRTは3回測定した値の平均値を算出した。統計解析は、模擬的浴槽またぎ動作能力に関係する身体機能要因を検討するため重回帰分析を実施した。解析方法は、性別と年齢を調整変数として強制投入し、模擬的浴槽またぎ動作能力を従属変数、各身体機能の測定値を独立変数とするステップワイズ法を用いた。統計解析には、SPSS Statistics 17.0を用い、両側検定にて危険率5%未満を有意水準とした。<BR>【説明と同意】<BR> 本研究は桜美林大学研究倫理委員会の承認を得た(承認番号09011)。被験者に対して、事前に本研究の目的や内容等を説明し書面による同意を得た。<BR>【結果】<BR> 模擬的浴槽またぎ動作能力と各身体機能の平均値±標準偏差を男性/女性の順番に以下に示す。模擬的浴槽またぎ動作能力は0.27±0.05/0.20±0.09、膝筋力が0.48±0.15/0.32±0.08 kgf/kg、股角度が123±7.65/121±11.9度、膝角度が140±6.68/133±13.3度、OLSが7.68±9.58/3.50±4.30秒、FRTが20.3±3.57/20.4±5.42cmであった。<BR> 重回帰分析において模擬的浴槽またぎ動作能力と有意な関連が認められた項目は、年齢(β=-0.39)、膝角度(β=0.44)、FRT(β=0.33)であった。自由度調整済み重相関係数は0.58であった。<BR>【考察】<BR> 模擬的浴槽またぎ動作能力と下肢関節可動域、立位バランス能力の関係性が示唆された。今後の課題として、症例数を増やし、男女別に詳細な検討を行う必要がある。また、実際の浴槽またぎ動作は手すりなどに掴まりながら実施されるものであり、上肢支持を用いた条件で、模擬的浴槽またぎ動作能力と身体機能の関係を検討する必要がある。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> PTが要介護高齢者の浴槽またぎ動作指導や環境整備を行う際の客観的判断基準として、下肢関節可動域と立位バランス能力の指標の有用性が示唆された。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), E3O1164-E3O1164, 2010

    公益社団法人 日本理学療法士協会

キーワード

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205571718144
  • NII論文ID
    130004582728
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.e3o1164.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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