脳卒中片麻痺患者の起立動作における運動力学的共通点と相違点

DOI
  • 長田 悠路
    誠愛リハビリテーション病院リハビリテーション部
  • 大田 瑞穂
    誠愛リハビリテーション病院リハビリテーション部
  • 坂口 重樹
    誠愛リハビリテーション病院リハビリテーション部
  • 清水 裕貴
    誠愛リハビリテーション病院リハビリテーション部
  • 田邉 沙織
    誠愛リハビリテーション病院リハビリテーション部
  • 渕 雅子
    誠愛リハビリテーション病院リハビリテーション部

書誌事項

タイトル別名
  • 離臀から足関節最大背屈までの重心制御方法は身体能力により異なるか

抄録

【目的】片麻痺患者の起立動作を力学的に分析する上で、第2相(離殿から足関節最大背屈相)における重心水平移動から垂直移動への運動の切り替えが重要であるとされている。しかし、起立動作の明確な評価指標は定まっておらず、治療の効果判定や能力評価として力学的評価指標の抽出が求められる。今まで座位からの歩き始め動作(STW)を研究してきた結果、効率よく立ちながら歩くためには第2相が重要であることが分かった。そして、この第2相において、麻痺側足関節底屈モーメントを利用した十分な身体重心前方移動が行えることが、STWのような実用的起立動作の評価指標になりうることが示唆された。今回、今までの研究結果も踏まえ、歩行能力順位で動作能力分類を行い、それらと起立時の各力学パラメータの相関を分析した。このことから、起立単一動作において何が起立動作能力の評価指標となり得るか検証することが本研究の目的である。<BR>【方法】対象は脳卒中片麻痺患者32名(年齢60.9±12.0歳、発症後期間144.2±69.9日、身長159.7±6.5、体重56.3±10.8Kg)で、著明な関節可動域障害、高次脳機能障害、失調症状のない者とした。歩行自立度の内訳は屋内外自立7名、屋内自立9名、屋内見守り16名。40cm台座位から両手下垂位での起立動作を3次元動作解析装置・床反力計にて計測した。分析期間はSchenkmanらの分類に則り離殿までを1相、足関節最大背屈までを2相、股関節伸展終了までを3相とし、運動力学的数値(床反力、関節モーメント、関節角度、重心加速度等)を抽出した。また、全動作時間における各相の占める割合や、相が切り替わるタイミングを算出した。そしてそれら各値と歩行能力順位(歩行自立度の順位とし同じ自立度内では10m歩行スピードが速い順とした)の関係についてSpearmanの順位相関係数を用いて検定した(危険率5%)。<BR>【説明と同意】承認された倫理審査に従って、インフォームドコンセントが得られた患者に対してのみ動作の計測を行った。<BR>【結果】歩行能力順位の向上に伴い、離殿時の麻痺側荷重量が増加し(r=0.53、p<0.01)、圧中心は正中化して前後により大きく動いていた(r=0.50、p <0.01)。それに伴い離殿時の進行方向制動加速度が増加し(r=-0.54、p <0.01)、動作時間が短縮した(r=-0.56、p <0.01)。特に、歩行能力向上に伴い第1相に時間の短縮(r=-0.57、p<0.01)が見られ、第3相でも時間が短縮(r=-0.53、p<0.01)していた。しかしその一方で、第2相の長さに関しては有意な相関がみられなかった(r=-0.14)。また、各相が切り替わるタイミングと歩行能力の関係は、第2相が始まるタイミング(動作開始から平均47.3±8.9%時点)、第3相が始まるタイミング(動作開始から平均56.1±9.0%時点)に有意な相関は見られなかった。また、第2相での足関節モーメント、最大背屈角度等に有意な関係性は見られなかった。<BR>【考察】歩行能力順位の向上に伴い、麻痺側荷重量増加や圧中心の前後移動能力が向上し、動作時間が短縮した。しかし、第2相の分析に関しては、STWで観察されたような、歩行能力向上に伴う姿勢制御の変化は見られなかった。このことから、起立単一動作に関しては足関節底屈モーメント産生による重心の前方移動はそれほど重要ではなく、むしろ、左右対称に荷重できることや、それに伴い前後方向へ効率よく圧中心を動かすことで、素早い動作を行えるようになることが必要であることが分かった。また、第2相は前方に移動する重心を上方移動に変換する役割があると考えられていたが、第2相の開始・終了タイミングやそのときの足関節能力に有意な差は見られなかった。よって、第2相は長くも短くもなく適度な期間であることが望ましいと考えられる。また、帯刀らによると健常人の第2相開始タイミングは動作スピードに関係なく51~56%時点で、第3相開始タイミングは64~67%時点であるとしている。これと今回の結果と比較すると、総じて、片麻痺患者は第2相のタイミングが早いといえ、全体的に第3相で多くの時間を要していると考えられる。<BR>【理学療法研究学としての意義】今回の結果から、起立単一動作の力学的評価を行う際には、麻痺側荷重量、前後方向COP移動量、動作時間を評価することが重要だと分かった。また、各相の切り替わるタイミングとして、個々の患者でバリエーションが見られるものの、対象患者の各イベントが動作全体の何%の時点で起こっているかを今回の平均値と比較することで、対象患者がどの相で困難を来しているのかを評価することができると考えられる。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), B4P2128-B4P2128, 2010

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205571742976
  • NII論文ID
    130004582126
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.b4p2128.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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