スモン患者に対する理学療法について

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抄録

【目的】<BR>薬害発症後、長い時間を経た今もスモン患者の異常知覚、身体活動の困難は続いている。毎年開催されている北海道スモン健診には医師、保健師、北海道スモン基金事務局、リハビリテーション職種が参加、患者の個別検診、全体会、ケース会議を行っている。身体機能、移動能力などの評価では、疾病と経年的変化に伴う評価と対策が必要である。評価項目は移動能力、拘縮、関節変形、筋力、心肺機能、異常知覚、介護力、装具、ADL、IADL、など必要に応じて行われる。北海道スモン患者に対する検診に参加し理学療法評価とその対策について報告する。<BR>【方法】<BR>対象は北海道地区在住のスモン患者87名(77±11歳、男性17名、女性70名)である。平成19年度に行われた集団検診、重症患者訪問検診での患者の主訴、理学療法評価項目、問題に対する対応、移動方法について調査を行った。<BR>【説明と同意】<BR>患者さんには検診の際、本調査に関する説明を行い同意を得た。<BR>【結果】<BR>検診での主訴は、膝の痛み(12名)、痙性(7名)、腰痛(6名)、肩の痛み(3名)、変化なし(3名)、その他であった。評価項目は関節可動域テストROM(31名)、移動動作テスト(34名)、徒手筋力検査MMT(21名)、足部浮腫(9名)、膝のストレステスト(2名)であった。理学療法的対応は、運動指導(14名)、動作指導(13名)、装具チェック(10名)、痙性への対応(4名)、手すり(3名)等であった。また、改善項目は、床ずれ(1名)、手指の拘縮(1名)、立ち上がり(1名)、筋力(4名)、疼痛(4名)、腰痛(1名)、足の痙性(1名)であった。悪化は膝の拘縮(1名)、意欲低下(1名)、殿部の痛み(1名)、足部浮腫(2名)、背部痛(1名)、圧迫骨折(1名)、足底痛(1名)、足部変形(1名)、動作(3名)、認知(1名)であった。移動方法は発症時(1965±3年)、独歩56名、T字杖13名、松葉杖12名、伝い歩き2名、車いす4名であった。移動方法が発症時と変化していない患者は39名で変化した患者は48名であり、さらに48名のなかで、さらに移動方法が変化した患者は5名であった。最初の期間の平均は32.9年、2番目の移動方法の期間は5.8年で3番目の移動方法の期間は4.3年であった。移動方法の変化要因としては、痙性の増強5名、筋力低下5名、関節拘縮1名、膝痛5名、腰痛1名、異常知覚2名、その他、体力低下であった。また、若年発症の2ケースにおいて、過度の腰椎前弯が見られたことは、成長期における筋骨格系影響については注目すべきことと考えられる。<BR>【考察】<BR>スモン患者は、随意筋力の低下、痙性、異常知覚と病的加齢により、積年の経過で関節が負担増加し、筋骨格系に問題点が多く、評価は関節可動域、筋力、動作、移動補助具の項目が多く行われた。異常知覚、長期にわたる関節や筋への過負荷、痙性などにより移動能力の低下が明らかになった。松本らは異常知覚が10年前に比較し悪化した例は54%であることを報告した。菊池らは3年間以上観察可能であったスモン患者の加齢による身体・精神機能の変化について調査し、80歳以上は経年的にADL、歩行能力、生活活動の低下が生じていることを報告した。移動能力の変化は骨関節系、中枢性、異常知覚などにより、徐々に動作が困難になっていくが移動能力の維持のために、皮膚刺激の少ない装具(革製、エラスティクタイプ)、使用しやすい手すり身体への負荷軽減、関節可動域維持、異常知覚軽減(針治療等)、転倒予防など個人に合わせた方略が必要とされる。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>神経疾患患者における長期経過が身体に及ぼす影響が分析され、今後の生活指導の根拠となる。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), B4P2124-B4P2124, 2010

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205571744256
  • NII論文ID
    130004582123
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.b4p2124.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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