住宅改善における理学療法士と作業療法士の介入状況の比較

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抄録

【はじめに】 住宅改善は高齢者が住み慣れた継続的地域居住のための重要な支援である.この支援に介入する理学療法士(以下,PT),作業療法士(以下,OT)の役割や職能の重要性は様々な領域から多数報告されている.ただし,多くの場合各々の独自の役割は明確化されていない.これに対して海外の状況としてOTを中心とした介入事例が報告されている.そこで,本報告では,我が国のPT,OTの住宅改善への介入の実態を調査し,今後の支援の役割や職能の検討の基礎とするものである.【方法】 対象は日本理学療法士協会名簿及び日本作業療法士協会名簿に掲載されていた会員から,自宅会員を除いた7.0%にあたるPT3,795名,同5.0%にあたるOT2,094名を無作為抽出した.調査は質問紙によるアンケートで,調査票は郵送にて発送,回収した.有効回答数はPT1,529名(40.4%),OT785名(37.5%)である.調査期間は2010年8月初めから2ヶ月である.調査結果は単純集計による結果の高低によってPTとOTで比較した.【倫理的配慮、説明と同意】 本調査及び研究の主旨に理解を得られた場合に,調査票を返信して頂く旨を依頼文として調査票とともに同封し,配布した.【結果】 (1)本調査の対象者の概要として両協会が発行している白書と比較すると,回答者の勤務先,性別,年齢は同傾向を示していた.(2)住宅改善の介入経験があるのはPT76.1%,OT67.5%であった.(3)介入した対象者として「自分が直接担当した者」(PT98.0%,OT96.6%)が各々最多であった.(4)具体的な介入場面としては「工事前の動作・ADLの評価」(PT94.2%,OT91.3%),「工事前の住宅の物理的環境の確認」(PT86.8%,OT86.2%),「工事前の相談」(PT84.7%,OT86.2%)といった工事前の支援への介入が各々上位であった.(5)住宅改善を要した動作は「玄関の出入り」(PT90.1%,OT89.6%),「排泄」(PT85.8%,OT88.9%),「入浴」(PT85.5%,OT86.0%)が上位であった.(6)介入時の連携職種として「介護支援専門員」が各々最多(PT85.5%,OT85.8%)で,次いでPTは「OT」(73.5%),OTは「PT」(80.6%)が多かった.(7)工事の内容,計画の立案の際に重視する項目は「対象者の動作やADLの現況」(PT94.8%,OT92.1%),「対象者や家族の要望」(PT85.2%,OT85.1%),「動作やADLの予後」(PT80.7%,OT82.6%)が上位であった.(8)効果判定の方法は「対象者の満足度」(PT87.7%,OT84.2%),「対象者の動作・ADLの状況」(PT84.3%,OT82.8%)が各々上位であった.【考察】 住宅改善の経験率はPT,OTとも高く,一般化された介入と位置づけられる.両者とも介入する対象者は運動療法等を日常的に担当している場合が非常に多く,これらは住宅改善を行う事例にのみ一時的に介入するのではなく,日々の担当の延長線上に住宅改善への介入があることを示唆している.具体的な支援の状況はPT,OTとも様々な場面に介入している.ただし,それらは工事前後で比較すると工事前に集中し,PT,OTによる住宅改善後のフォローアップが機能していない可能性がある.住宅改善を実施した具体的な動作やADLは移乗や移動との関連性が高く,住宅改善実施時のこれらの動作,ADLのより詳細な評価や確認の必要性を示している.本報告ではPTとOTの介入状況や介入に際する視点や技術といった現在の実態を反映する複数の項目によって両者を比較している.ただし,いずれの項目についても特徴的な差はみられていない.欧州各国ではPTとOTが異なる専門性を有する専門職として,独自性を発揮しながら住宅改善に介入していることが報告されている.これらの報告と比較すると本結果に示された我が国のPT,OTの実態は稀な例ととらえられる.介入時の各々の役割や専門性が明確化されない状況が継続することは,結果的にPT,OTの住宅改善介入への社会的ニーズの縮小化や職域の狭小化を招くこととなる.従って,我が国固有の介入状況を生じさせる要因について今後の詳細な調査,検討の必要性が示唆された.【理学療法学研究としての意義】 住宅改善への介入におけるPT及びOTの大規模な調査を通して実態を把握し,その役割や専門性を検討する視点を明らかにした.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2011 (0), Ea0361-Ea0361, 2012

    公益社団法人 日本理学療法士協会

キーワード

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205571767296
  • NII論文ID
    130004693410
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.ea0361.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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