バランス能力を構成する因子と歩行自立度との関係
書誌事項
- タイトル別名
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- ─Functional Balance Scaleによる検討─
説明
【目的】 Functional Balance Scale(FBS)は、多様な項目により対象者のバランス能力を広く評価できる妥当性のある評価指標である。一方で、バランス能力を構成する要素を運動学的に分類するとa.静的バランス(静止姿勢保持と支持基底面の変化のない重心移動)b.動的バランス(支持基底面の変化する重心移動)c.外乱負荷応答に分けられることが知られている。FBSは上記の概念からaとbを主に評価している総合的バランス評価である。しかし、FBSは項目数が多く評価に時間を要する欠点があることも知られている。また、実際にFBSの下位項目を分類した研究はみあたらない。そこで、本研究の目的はFBSの下位項目を分類し、その分類から歩行自立度を判断することとした。【方法】 対象は脳血管疾患により片麻痺を呈した59名である(年齢64.3±12.5歳、発症からの期間83.8±51.1日)。なお、検査結果や日常生活に影響を及ぼすような高次脳機能障害、認知症を有する者はいなかった。調査項目は麻痺側下肢Brunnstrom Stage(下肢BS)、Timed Up and Go test(TUG)の3m最大速度条件、麻痺側下肢荷重率(荷重率)、Barthel Index(BI)、FBSとした。統計学的解析は、事前にShapiro-Wilk検定にて正規性を確認後、各項目間の相関関係をPearsonとSpearmanの相関係数にて検討した。歩行自立群と非自立群の比較はt検定とMann-WhitenyのU検定にて検討した。FBS下位項目の分類は因子分析にて検討した。その後、分類された因子ごとにFBS下位項目得点を並べ替え、FBSの分類因子が歩行自立度に与える影響を確認するため、ロジスティック回帰分析を行った。さらに分類因子に臨床的意義を与えるため歩行自立を判断するカットオフ値をROC曲線から判断した。全ての統計はSPSS18.0J for Windowsを使用し有意水準は5%とした。【説明と同意】 対象者には事前に研究の概要を説明し、理解を得た後、研究参加の同意を得た。【結果】 ほとんどすべてのパフォーマンス指標間に相関関係があり、自立群と非自立群の間に有意差が認められた。FBSの因子分析の結果、第2因子までが有効であった。しかし、臨床的解釈が困難であり因子数を3とし再解析した。その結果、ほぼ同じような結果が算出された。つまり第1因子(因子寄与率53.65%)は動的バランス(項目8,10,11,12,13,14)であり、第2因子(因子寄与率10.70%)は静的バランス(項目2,6,7,9)であり、第3因子(因子寄与率6.91%)は粗大下肢筋力(項目1,4,5)であった。なお、これら因子間の相関関係は良好であった(r=.574~.779)。これらの各因子の合計点によるロジスティック回帰分析(尤度比による変数減少法)において、第1因子のみが採択された(p<.001:偏回帰係数-0.341、定数4.546:オッズ比1.406、95%CI 1.183~1.669:判別的中率78%)。歩行自立を判断するカットオフ値は第1因子、第2因子、第3因子それぞれ14.5/24点、15.5/16点、10.5/12点であった。感度および特異度はそれぞれ71.9および85.2%、81.3および55.6%、96.9および55.6%であった。【考察】 FBSの因子分析では初期解の推定に最尤法を、因子の回転としてバリマックス法を用いた。なお、項目3座位保持は全例満点であり解析から除外した。最初に採択された2因子は、ほぼ静的バランスと動的バランスの概念で説明できる分類であったが、因子負荷量から解釈が困難な項目があった。そこで、因子数を3とし再解析した結果、上記のようになった。なお、項目7閉脚立位は因子負荷量が第2因子で.332であり第3因子で.358とほぼ同様の結果であったため、解釈の容易な第2因子に含めた。各因子の歩行自立のカットオフ値について、第1因子(動的バランス)では感度と特異度のトレードオフが著しかった。つまり、第1因子の得点は自立群と監視群とも比較的広く得点が分布した。第2、3因子は両項目ともほぼ天井効果を示した。そこで、特に第1、3因子(動的バランスと下肢粗大筋力)と歩行自立度の関係を検討した。第1、3因子は線形関係にあり(r2=.525)、第3因子が11点以上あり、かつ第1因子が13点以上の歩行自立群と非自立群の割合は50%、14点以上で33%、16点以上で25%であった。これはつまり、静的バランス、下肢粗大筋力が十分良くなった上で、動的バランス能力が歩行自立度に大きな影響を与えることを意味している。【理学療法学研究としての意義】 今回の結果は、FBSの短縮版として有用である。また、下肢粗大筋力は動的バランスと線形関係にあった。今回のような静的、動的バランスおよび下肢粗大筋力の各項目の検討と、それらの相互作用の結果である全体の能力を考慮することが重要である。
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2011 (0), Aa0162-Aa0162, 2012
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205571776768
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- NII論文ID
- 130004692291
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可