手指屈曲可動域制限に対するスプリントを併用した理学療法の一経験

説明

【目的】<BR>手指近位指節間関節(以下PIP関節)、遠位指節間関節(以下DIP関節)の屈曲可動域制限に対してのスプリントはstrap&buckleやweb strapが用いられる(中島,2008)。今回、手指PIP関節 DIP関節屈曲可動域制限に対して伸張強度を簡単に調節でき、持続伸張を加えることを目的としたスプリントを考え作製し、長期にわたり残存した手指PIP関節、DIP関節屈曲可動域制限に対してスプリントを併用した理学療法で良好な成績が得られたため、若干の考察を加えて報告する。<BR>【方法】<BR>症例は69歳女性。転倒により右橈尺骨近位端骨折を受傷し、観血的骨接合術を施行。その後CRPS(complex regional pain syndrome)type1を発症した。そのため強い疼痛により長期にわたって関節運動が困難な状態が続き、手指に屈曲可動域制限が残存した。受傷後4ヶ月で退院し週3回の外来通院となった。受傷後5ヶ月より疼痛軽減し徒手的な関節可動域訓練を開始した。関節可動域訓練開始時は中指PIP50°DIP30°、環指PIP50°DIP25°であった。関節可動域訓練開始後3ヶ月(受傷後8ヶ月)で中指PIP90°DIP50°、環指PIP90°DIP45°まで可動域に改善がみられたが、その後可動域の変化は見られなくなった。そのため受傷後11ヶ月後より徒手的な関節可動域訓練に加えて、スプリントを併用しての持続伸張を開始した。スプリントは熱可塑性のスプリント材Ezeformの3.2mmを使用し、PIP関節の伸展可動域制限の改善に用いられるスプリントのjoint jackを応用して作成した。DIP関節、PIP関節屈曲位で基節骨背側にスプリントを装着し使用する。伸張強度は蝶ネジで簡単に調節ができ患者本人でも容易に持続伸張が加えられるように作製した。スプリントは使用方法を患者に説明し安全に使用できることを確認し週3回の外来での治療時間だけでなく、自宅でも使用してもらった。自宅でのスプリントを用いての持続伸張時間は平均3時間程度であった。今回は中指、環指にスプリントを使用し、スプリント使用前と使用後の関節可動域と握力の変化を比較した。<BR>【説明と同意】<BR>なお症例には発表の主旨を説明し、発表の同意を得た。<BR>【結果】<BR>スプリントを併用しての持続伸張を開始後徐々に可動域は変化した。開始後5週で他動屈曲可動域は中指PIP90°DIP50°、環指PIP90°DIP45°から中指PIP105°DIP70°、環指PIP100°DIP65°と改善した。また握力も7kgから10kgへと改善した。<BR>【考察】<BR>Evans(1960)は組織学的に90日を超える不動においては骨膜被膜で境界された血管の欠如する星状細胞による結合組織の増殖と癒着がおこると述べており、八百板(1966)も不動解除後の回復実験においても60日以上の不動関節では関節内の強い結合組織の癒着が残存し回復に至らなかったと述べている。今回の症例では強い疼痛のため長期にわたり関節可動域訓練が開始できず、受傷後150日経過してからの開始となった。徒手的な可動域訓練で変化がみられなくなった後、患者一人での装着も容易で伸張強度の調整も簡単にできるスプリントを作製し持続伸張する時間を延長した結果、関節可動域、握力に改善が認められた。組織学的には結合組織による強度の癒着が完成されていると考えられるが、スプリントを用いた持続伸張よって中心策、外側策、背側の関節包などの軟部組織に変化が起こり、関節可動域の拡大と握力の向上に繋がったと考えられる。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>これまでPIP関節、DIP関節屈曲可動域制限に対してstrap&buckleやweb strapが用いられてきた。これらの装具は患者が一人で装着し伸張強度を調整することは困難である。またPIP関節、DIP関節屈曲可動域制限に対してのスプリントを用いた持続伸張の効果の報告は症例数も少ない。一症例の報告ではあるが、今回のように装着も持続伸張の調整も容易なスプリントを作製したことで関節可動域制限に対するスプリントの有効性が示された。今回の報告が難渋する症例への検討材料になることを期待する。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), CbPI1305-CbPI1305, 2011

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205571780352
  • NII論文ID
    130005017141
  • DOI
    10.14900/cjpt.2010.0.cbpi1305.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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