足関節捻挫を受傷し距骨骨軟骨損傷を合併した症例の保存療法によるスポーツ復帰について

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抄録

【目的】<BR> 整形外科における理学療法の対応疾患で最も触れる機会が多いのが足関節の捻挫である。今回足関節の捻挫に距骨骨軟骨損傷を合併した症例を担当した。本疾患はその多くが保存療法に抵抗し治療効果が得られず手術適応となる。保存療法により症例のスポーツ復帰というニードを満たせるかどうかを検討した。<BR>【方法】<BR> 対象は当院にて治療を行った距骨骨軟骨損傷患者1名である。16歳男性、バスケットボール部での練習中に受傷。相手選手の足の上に着地し足関節を捻挫して当院に来院した。X線にて距骨前外側部に低吸収域を、CTにて距骨骨軟骨損傷および骨片の離解を認めた。Berndt and Harty systemでSrage4、fragment loose in joint、骨片は遠位脛腓関節後方部に位置し、距腿関節面には接触していなかった。また前距腓靭帯、踵腓靭帯、三角靭帯前部線維部に圧痛を認めた。<BR> 即日シーネ固定および松葉杖による完全免荷を行った。炎症症状が強くROM制限が著しいため、初めに安静肢位である底屈位での固定をし、2週後20°底屈位での固定を再度行った。4週後シーネ下にヒールを装着し1/5PWB開始。5週後にテーピング固定に切り替え1/3PWB。6週後1/2PWB、7週後FWBとなった。<BR> PWBを開始後徒手による距腿関節のモビリゼーションを開始した。Glade3の牽引および後方への滑りを関節面に加えた。5週後に足関節背屈5°底屈30°、7週後には背屈10°、底屈40°となった。さらに抗重力位での足関節背屈誘導により8週後には全可動域を獲得した。それに伴いEMSを用いた腓骨筋群の運動、ブリッジ、スクワットやカーフレイズを順に行った。FWBが可能となった後不安定盤上での足関節のコントロールやスクワットを行った。<BR>【説明と同意】<BR> ヘルシンキ宣言に基づき患者・保護者に説明し同意を得た。<BR>【結果】<BR> 足関節前部の詰まるような痛みは足部モビライゼーションにより消失しROMは全可動域となった。筋力は底屈4レベル、他は5レベルまで回復した。9週経過後ランニングを開始したが患側での抗重力動作にはまだ難があり、競技復帰には至っていない。しかし全可動域において自動運動は安定しルーズニングは認められない。また荷重時の関節内の痛みも消失し筋力の回復、運動学習による関節のコントロールが得られれば競技復帰が可能な段階まで到達した。<BR>【考察】<BR> 距骨骨軟骨損傷を合併した足関節捻挫の治療において最も苦慮したのは固定期間をどの程度とるかの判断である。靭帯損傷が高度であれば固定期間の短縮により関節のルーズニングが生じてしまう。反対に固定期間を延長した場合、関節の拘縮や骨・筋の萎縮は免れない。スポーツ活動への復帰を前提とした場合、そのどちらに転んでも競技人生においてマイナスの作用をもたらしてしまう。<BR> 荷重時痛が強い場合にはPTB装具を用いることもあるようだが本症例は幸いにも受傷後4週経過時点でPWBを開始することができた。しかし免荷期間が通常の捻挫よりも長引くために下腿筋群の萎縮は避けられなかった。足関節動作筋の等尺性収縮により関節腔には圧迫力が加わるため疼痛を誘発しやすく、炎症期には足指や膝関節周囲の筋力増強運動にとどまった。ROMは炎症期が長いためにモビリゼーション開始時には背屈-20°で底屈のみわずかに可能であった。背屈への他動運動を行うと足関節前部の詰まるような痛みにより関節にロックがかかる状態であったが牽引を繰り返すことで可動域は増していった。キャッチングによるROM制限や荷重時痛が残る場合は手術の適応となるが本症例のように比較的骨片が小さく転移場所が関節面に接触しない場合、保存療法のみで回復が見込めるのではないだろうか。しかし保存療法の選択によりルーズニングやキャッチングが残ってしまった場合、将来的に関節面の接触による変性を招き、関節症やインピンジメントをきたしてしまう可能性があるため、適応には細心の注意が求められる。<BR> 骨軟骨損傷を伴う場合、靭帯損傷のみの場合とは炎症症状の寛解が明らかに遅いため可動域訓練の開始も遅くなってしまうが、手術による侵襲や合併症を考慮し、関節面への将来的な損傷が否定できるのであれば保存療法の優位性が認められると考える。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 観血的治療がスタンダードである疾患に対しても理学療法の介入により手術を回避し、症例のニードを満たすことが可能なケースもある。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), CbPI1288-CbPI1288, 2011

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205571787520
  • NII論文ID
    130005017124
  • DOI
    10.14900/cjpt.2010.0.cbpi1288.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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