道具使用に関する機能的,操作的,概念的知識に基づく処理負荷の違い
書誌事項
- タイトル別名
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- ─弁別課題による検討─
説明
【はじめに、目的】 脳損傷や脳病変により生じる高次脳機能障害の一つとして,失行症といわれる臨床症状が知られている.失行症では,意図的な模倣動作や道具使用などが困難となり日常生活の獲得が大きく阻害される.道具使用の認知基盤は,道具の機能的特徴に関する知識である機能的知識(Mechanical Knowledge),操作方法に関する知識である操作的知識(Manipulation Knowledge),使用目的に関する知識である概念的知識(Conceptual Knowledge)に分類される(Bohlhalter,2009)。これまでの研究では,課題の呈示方法において画像を用いた場合と単語を用いた場合があるが(Ishibashi,2011, Buxbaum,2002),これらの研究は,それら知識に基づく処理負荷が同じであるか異なるかが明らかではない (Moreaud,1998).そこで本研究では,認知課題の一つであるGo-No go課題を用いて,その正答数と反応時間を分析し,各知識の文字・画像提示による負荷量の違いを明らかにすることを目的として以下の実験を行った.【方法】 整形外科的・精神医学的な既往のない右利き健常成人8名(男性4名,女性4名,平均年齢±標準偏差:30.2±4.14)が実験に参加した.被験者はデスクトップコンピュータのスクリーンから1m離れた位置で椅子座位となり,Go-No go課題を行った.プロトコルはクロスマーク0.5秒-道具(1)呈示1秒-クロスマーク0.5秒-道具(2)呈示2秒とし,64セット連続で行い,それを1セットとした.呈示する道具は,先行研究を基に83の道具から選択した.機能的知識課題では,画像条件・文字条件とし,各条件の中で道具(1)と(2)が同じ機能を有するかを弁別させた.操作的知識課題では,道具(1)と(2)が同じ操作方法かを弁別させた.そして概念的知識課題では,道具(1)は道具(2)を対象とした道具かを弁別させた.コントロール課題は道具(2)呈示後ランダムにキーを押す手続きを用いた.これらの計4課題を実施し,課題の順序は被験者ごとにランダムに変更した.被験者は課題が一致すれば右示指で,一致しなければ左示指でなるべく早くキーを押すことを求められた.なお,一致する課題32セット,一致しない課題32セットとした.各課題において時間内に正答できた数を抽出し,要因1を画像・文字,要因2を機能的知識・操作的知識・概念的知識とし,二元配置分散分析を用いて統計処理した.事後検定としてはBonferroni法を用い各要因の値を比較した.また,各条件の弁別時間をコントロール課題から減算し,それを加算平均した値を抽出し同様の統計処理を行った.統計学的な有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は畿央大学研究倫理委員会の承認を受け、研究実施の際には参加者に対し研究の趣旨を十分に説明し,同意を得た上で実施した.【結果】 二元配置分散分析の結果,弁別時間においては有意な差は認められず,正答数において要因2で有意な差が認められた(p<0.05).事後検定の結果,操作的知識は概念的知識と比べて有意に正答数が少なかった(a<0.05).また,弁別時間では有意な差は認められなかったが,操作的知識においてわずかに高値を示した.【考察】 機能的知識課題と概念的知識課題においては,意味記憶が関与する側頭葉が主に活動する課題であるのに対し,操作的知識課題では身体運動を一人称的にシュミレーションする (Goldenberg,2005)ため,それには頭頂葉,運動前野,補足運動野といった複数の皮質領域が関与する.したがって,操作的知識課題は他の2課題よりも高度な処理が求められる.この理由から,操作的知識課題は認知的負荷が大きくなったことが考えられ (Stephan,1995),これにより正答数が有意に低下し,弁別時間の延長傾向が認められたと考えられる.また,画像・単語条件では有意な差は認められなかった.画像は呈示により受動的な識別が可能であるのに対し,単語は呈示後自らがイメージを想起しなければならず,脳活動の違いがあると考えられるが(Phillips,2002),今回の結果から,その処理負荷に大きな差がないことと考えられた.今後は実際に脳活動を計測し検証する必要がある.【理学療法学研究としての意義】 操作的知識の処理負荷が本研究によって高いことが明らかになった.本研究成果は,失行症の治療や介入方法についての基礎的データとして有用であると考えられ,今後の高次脳機能障害に対する理学療法研究の発展につながると考えている.
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2011 (0), Aa0175-Aa0175, 2012
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205571791744
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- NII論文ID
- 130004692304
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可