月経周期と歩行立脚初期の膝関節動揺の関係

DOI
  • 櫻井 好美
    神奈川県立保健福祉大学 リハビリテーション学科
  • 石井 慎一郎
    神奈川県立保健福祉大学 リハビリテーション学科

抄録

【目的】<BR> 月経周期の各期における膝関節の関節動揺の変動については多くの報告がみられるが、変動の有無やどの期に増減するかについて見解の相違があり、明らかになっていない。本研究では、皮膚表面の標点計測から微細な骨運動の計測を可能にするPoint Cluster法(以下PC法)を用いて、歩行立脚初期の膝関節角度が月経周期によって変動するかを検討することを目的とした。<BR><BR>【方法】<BR> 被験者は,下肢に整形外科的既往のない健常青年15名(男性5名,女性10名.平均年齢21.5歳)とした.女性被験者の月経周期は27.6±2.3日であった。測定前にBeightonの評価法を用いて関節弛緩性の評価を行い,関節に過可動性がないことを確認した。<BR>歩行計測は、男女ともに7日ごとに合計12回実施した。被験者の左下肢の体表面上にPC法で決められた位置に計25個の赤外線反射標点を貼付し,三次元動作解析装置VICON 612(VICON PEAK社製)を用いて 計測した.歩行は5試行行い各標点の座標データから立脚初期の膝関節屈曲角度,内・外反角度,回旋角度,大腿骨に対する脛骨の前後移動量について、それぞれの最大値の平均値と標準偏差を求めた。そこからばらつきの指標となる変動係数Coefficient of variation(標準偏差/平均値×100)を算出した。<BR>歩行計測の期間中、女性被験者のみ12週間の基礎体温と月経期間を記録した。基礎体温の測定は、「毎朝起床直前の1分間で、寝具の中でできる限り安静を保った状態で舌下で測定する」と指示した。基礎体温の結果から高温期と低温期に分けて変動係数を比較した。高温期と低温期の判定は尾上ら(1980年)の方法に準じて行った。すなわち、月経周期第1日から10日までの基礎体温の平均値を求め、この上下0.1度以内を低温期の変動範囲とし、4日連続してこの範囲を超えた場合、高温期に入ったと判定した。<BR><BR>【説明と同意】<BR> 本研究の実施に際しては,所属施設の研究倫理審査委員会の承認を得た.被験者には事前に本研究の趣旨と内容の説明を行い,研究参加ならびにデータの開示に関して同意署名を得て実施した.<BR><BR>【結果】 <BR> 基礎体温の記録から低温期と高温期を判別し2周期分を抽出した。判別が困難であった女性1名はデータ解析から除外した。<BR>男性の12回の変動係数は、屈曲が1~3%、内・外反が3~6%、内・外旋が4~7%、前後移動量が2~4%で推移しており、被験者ごとに変化はみられなかった。一方、女性は低温期が屈曲1~3%、内・外反5~8%、内・外旋が5~7%、前後移動が3~6%であったのに対し、高温期では屈曲1~3%、内・外反が7~11%、内・外旋が5~11%、前後移動が3~8%となり、内・外反と内・外旋でばらつきが大きくなる傾向がみられた。<BR><BR>【考察】<BR> 本研究結果から、高温期では歩行立脚初期の膝関節の内・外反と回旋のばらつきが大きくなることが示唆された。内・外反角度のばらつきの増加は、試行によって膝関節の内・外反ストレスが変化していることを示す。つまり女性は高温期において、歩行中の内・外反ストレスが1歩ごとに増減し一定でないことがいえる。<BR>立脚初期は、体重レベル以上の外力が急激に負荷されるため、外力に対する下肢関節の動的安定性が最も要求される時期である。この動的安定性を維持するには、大腿骨の外旋と脛骨の内旋によって膝関節を相対的に内旋位にして、前十字靭帯(以下ACL)と後十字靭帯の捻じれを利用して関節面を接合させ、脛骨と大腿骨を鉛直に配列させる必要がある。しかし、高温期では回旋角度が変化することで、関節面の接合が不安定な状態となり、内・外反角度のばらつきが増加したと考察した。<BR>この理由として、先行研究では高温期である黄体期に大腿直筋と大腿二頭筋の筋硬度が有意に高くなることが述べられている(岡崎ら、2008)。大腿直筋は膝関節を内反させ、大腿二頭筋は脛骨を外旋させる作用を持つ。高温期には膝関節周囲筋の緊張の不均衡がおこり、内・外反と内・外旋ばらつきの増加に影響したのではないかと考えた。<BR><BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 理学療法の実施において、男女差を考慮する必要性は広く認知されているところである。しかし、能動運動下での動作パターンの男女差や月経周期との関係については不明な点が多い。女性の障害予防の観点からも、今後も研究を継続していく意義はあると考える。<BR><BR>

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), CbPI1315-CbPI1315, 2011

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205571804288
  • NII論文ID
    130005017151
  • DOI
    10.14900/cjpt.2010.0.cbpi1315.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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