荷重位、非荷重位での舟状骨高と足関節肢位を変えた股関節外転筋力との関係
説明
【はじめに、目的】我々は第47回本学会において内側荷重優位の片脚立位群では足関節外反位での股関節外転トルクが、外側有意荷重群では足関節内反位での股関節外転トルクがそれぞれ有意に高値を示すことを報告した。足底の荷重分布には様々な身体の形態・機能が影響する。荷重分布に関わる足部の形態特徴の代表的なものがアーチ構造であり、その評価方法として内側縦アーチ高率など様々な方法が報告されている。また、筋機能の評価方法として筋力や足趾把持力などの報告がなされており、アーチ高と筋力に関する報告は多い。しかし、荷重に伴い内側縦アーチの下降を示すが足部・足関節周囲の個別の筋力低下を示さない症例も経験する。そのような症例では足関節を内反位にした状態での股関節外転・伸展筋力が低下することが多く、股関節との協調性不全を有していると考えられる。本研究の目的は荷重時の内側縦アーチ高の変化と股関節・足関節の協調性の関係を明らかにすることである。【方法】対象は男性15名、30足(年齢22.2±0.5歳、身長174.5±6.8cm、体重68.9±6.1kg)。対象者には神経学的、整形外科的疾患を有するものは含まれていない。測定項目は非荷重位・荷重位での舟状骨高と股関節外転筋力である。舟状骨高の計測はBrodyらが報告したNavicular Drop Testを用いた。非荷重位での舟状骨高は膝関節屈曲90°位、足関節中間位の端座位にて舟状骨結節最突出部をマーキングし、床面からの距離を測定した。荷重位での舟状骨高は体重計上で両下肢均等荷重の立位をとり、床面から舟状骨結節最突出部までの距離を測定した。非荷重位の舟状骨高から荷重位の舟状骨高を減じ、ND値(Navicular Drop)とした。股関節外転筋力の測定は骨盤をベルトで固定した背臥位にて、μTasF-1(アニマ社製)を外果直上で柱に固体した。運動課題は股関節内外転・内外旋中間位での股関節外転の等尺運動である。測定は足関節内反位、外反位、中間位の3条件でランダムに行った。各条件ともに3秒間を3回測定し、中間位での股関節外転筋力を100%とし、内反位と外反位での股関節外転筋力の割合を算出した。統計処理はピアソンの相関係数を用いてND値と足関節内・外反位での股関節外転トルクの相関を検討した。なお有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】対象者にはヘルシンキ宣言の趣旨にのっとり、本研究の趣旨を事前に説明し、同意を得た。【結果】ND値と足関節外反位での股関節外転トルク(以下外反位トルク)は強い正の相関(rs=0.71 p<0.05)を示した。ND値と足関節内反位での股関節外転トルク(内反位トルク)は負の相関(rs=-0.61 p<0.05)を示した。また、外反位トルクと内反位トルクは負の相関(rs=-0.66 p<0.05)を示した。【考察】Navicular Drop TestはBrodyらが考案した足部アライメントの評価方法であり、その信頼性、再現性の高さは諸家が報告している。ND値が6mmから9mmの間もしくは10mm以下は正常であり、10mmもしくは15mm以上は異常と評価する。今回、ND値が大きくなるに従って外反位トルクが高値を示し、内反位トルクは低値を示した。一方、ND値が小さくなるに従って外反位トルクが低値を示し、内反位トルクは高値を示した。舟状骨は内側縦アーチの最高位に位置するkeystoneとして捉えられ、その高位に影響を与える筋として後脛骨筋、長腓骨筋、前脛骨筋などがある。足関節周囲筋群の筋活動と荷重の関係について、河野は足関節の前額面での安定性は腓骨筋と後脛骨筋の協調的な筋活動によって支えられていると述べ、Seibelらは長腓骨筋は荷重を外側から内側へ移動させる機能を有すると述べている。今回の結果では、ND値が大きくなることは内側縦アーチの下降および足部の回内方向への運動を反映していると考えられ、後脛骨筋の筋活動が減少し、長腓骨筋の筋活動が増大した状態と考えられる。このため、ND値が大きくなると足関節外反筋群が収縮した状態での外反位トルクが高値を示し、内反筋群が収縮した状態での内反位トルクが低値を示したものと考える。反対にND値が小さくなると後脛骨筋と腓骨筋の関係は逆転し、足関節内反筋群が収縮した状態での内反位トルクが高値を、外反筋群が収縮した状態での外反位トルクが低値を示したものと考えられる。したがって、荷重により大きな足部のアライメント変化が生じる症例では、足内・外在筋の個別のエクササイズのみでなく、股関節と組み合わせたエクササイズが必要であると考える。【理学療法学研究としての意義】今回、荷重に伴う舟状骨高の変化によって足・股関節の筋群を協調的に収縮させた状態での筋力が変化することが明らかとなったことから、荷重時に足部アライメントが大きく変化するような症例において多関節の協調的な視点で評価・治療することの重要性が再認識された。
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2012 (0), 48100614-48100614, 2013
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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キーワード
詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205571818112
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- NII論文ID
- 130004585083
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可