著明な股関節可動域制限を有する症例の人工股関節全置換術後の理学療法

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  • 歩行能力の改善と階段昇降獲得を目指して

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【はじめに】<BR> 両側の股関節に強度の変形と著明な可動域制限を有する症例に対して、左人工股関節全置換術(以下、THA)および骨移植術と内転筋切離術を施行された症例を経験した。安定した歩行と術前困難であった階段昇降の獲得を目標に可動域改善と外転筋力強化のために運動療法を展開した結果、良好な成績が得られたので報告する。<BR>【症例紹介】<BR> 両側の変形性股関節症を有した、50歳代の女性である。術前の日本整形外科学会股関節治療成績判定基準(以下、JOAスコア)は27点であった。特に左股関節には強い疼痛があり、可動域(以下、ROM)は屈曲10度、外転5度と高度な制限を認めた。歩行はDuchenne型の跛行を呈し屋内伝い歩きがなんとか可能な状態であり、階段昇降は困難であった。<BR> 左股関節は後外側アプローチでセメントレスTHAが施行され、臼蓋上方への骨頭を用いたブロックでの骨移植術と薄筋、長短内転筋、恥骨筋腱切離術が追加された。術中ROMは屈曲80度、外転30度であった。股関節伸展位で内旋60度、80度屈曲位で内旋80度まで脱臼しなかった。<BR>【説明と同意】<BR> 患者様に、今回の発表に対し、充分な説明を行い、同意を頂いた。<BR>【経過および理学療法】<BR> 術後1日目、左股関節屈曲、外転時に内転筋切離術によると思われる鼠径部痛があり、圧痛が大内転筋に認められた。左股関節ROMは屈曲10度/右20度、外転5度/右10度であった。免荷期間は術後5週間であった。<BR> 術直後より左股関節周囲筋の柔軟性獲得を目指して、ストレッチングやボールやスリングを利用した関節可動域訓練を行った。同時に右股関節に対しても関節可動域訓練を行った。<BR> また、免荷期間に左股関節周囲筋の筋力低下を防止するため、外転筋を中心に股関節周囲筋の等尺性筋力訓練を行い、術後4週目以降は等張性筋力訓練を行った。同時に右股関節周囲筋に対しても等尺性筋力訓練を行った。<BR> 荷重は、骨移植術が行われたため、術後3週目より1/3部分荷重を開始し、移植骨が安定した術後5週目より全荷重となった。<BR> JOAスコアの経過は術後4週目43点、術後8週目75点、術後9週目の退院時79点と改善した。特に改善した項目は疼痛と可動域であった。<BR> 退院時には左股関節痛は消失し、左股関節ROMは屈曲75度/右30度、外転30度/右10度であった。<BR> microFET2(HOGGAN社製筋力測定装置)を用いた左股関節外転筋力は、術後1週目で健側67Nに対し患側37Nと健側比55%であったが、退院時には健側122N、患側125Nと健側比102%に改善した。<BR> 歩行動作はDuchenne型の跛行がわずかに残存しているが、T字杖歩行が獲得された。全荷重後の10m歩行速度は術後6週目の時点では20秒であったが、退院時には13秒と改善した。最終歩行動作は階段昇降が手すりとT字杖使用した上肢支持による二足一段での昇降が可能となった。<BR>【考察】<BR> 今回、安定した歩行動作と階段昇降の獲得を目標に運動療法を展開した。<BR> 術前および荷重開始後の歩行動作において本症例はDuchenne型の跛行を呈していたため、安定した歩行動作の獲得には特に股関節外転筋力の強化が重要であると考えた。内転筋切離術による術後の鼠径部痛を考慮し、左股関節外転筋力強化は大内転筋に過剰な伸張刺激が加わらないよう等尺性運動から行った。鼠径部痛が軽減してきた術後4週目以降は疼痛に応じて、等張性運動による筋力強化に変更することにより外転筋力の増強をすすめた。また、右股関節については可動域制限の為、等尺性筋力訓練を行った。その結果、両側ともに外転筋力が向上し、患側立脚期にDuchenne型の跛行がわずかに残存したが、健側上肢にT字杖を使用することにより良好な歩容が獲得でき、歩行速度も改善したと考える。<BR> 階段昇降に必要な股関節屈曲角度について相澤らは67度が必要であるとしている。しかし、運動療法開始当初は、鼠径部の疼痛と大内転筋のスパズムにより、股関節屈曲角度は強く制限されていた。そのため大内転筋に対してIb群神経抑制を利用したストレッチングと相反神経抑制を利用したボールやスリングを利用した股関節の自動運動を行った。股関節屈曲角度は、術中の80度に近い75度に改善し、階段昇降動作の獲得に至った。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 本症例を担当し、強度の変形性股関節症患者において、安定した歩行動作と階段昇降の獲得のために、可動域訓練や筋力訓練を痛みや筋スパズムに配慮し病態の変化にあわせて行うことが必要であると痛感した。今後は、同様の症例に対して術前評価を詳細に行い、術後の治療において病態の変化を予測し良好な治療結果を得られるよう努めたいと思う。<BR>

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